私が恋を知る頃に

碧琉side

コクリと頷いた穂海は酷く不安げだった。

「大丈夫だよ。穂海ならできる。今は上手くいかなくても必ず上手くいくようになるから。上手くいかなくても凹まなくていいんだよ。最初から全部できる人なんていないんだから。」

そう言ってもう一度穂海の頭を撫でる。

「穂海は、始める時期が他の人より遅くなっちゃったから出来ないって感じるかもしれない。…でもね、他の人だって最初はみんな上手く出来なかったんだよ。」

俺たちがみんな、当たり前のように箸を使えるのも、字をちゃんと書けることも全て親や学校の先生に教えて貰って練習してきたから。

穂海は、その機会が他の人よりも少なかっただけ。

「色々と上手くいかないと感じることも多いかもしれない。でもね、何度もやってみるうちにきっとできるから。上手くいかなくて困ったら周りに助けを求めていいんだよ。みんな、助けを求められることは迷惑だと思っていないからね。」

コクン

出来ないうちは辛いだろう。

周りはできるのになんで自分だけ…と思ってしまうのも無理はない。

でも、最初の壁を乗り越えられたらきっと世界はもっと広がるはず。

もうだいぶ落ち着いた様子の穂海は、まだ不安げながらも決心したように立ち上がった。

「……頑張る」

「うん。頑張れ。応援してるよ。」

さっきもこんなやり取りをしたなあと少し微笑ましく思う。

穂海にとって、これからは新たな挑戦の連続だ。

最初は躓くことが多いかもしれない。

でも、その躓きを糧に沢山のことを身につけてほしい。

そう思いながら穂海を見送った。
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