私が恋を知る頃に
新しい生活
私が車に怯えたのを見て、職員さんは施設まで歩いていくことを提案してくれた。

荷物もあるから車にしようと思っていたが、そこまで遠くない場所だから歩いても行けるらしい。

病院の外は、見たことの無い景色が広がっていた。

私が思っていたよりもずっと大きな病院だったみたいで、敷地を出ても沢山の薬局やコンビニ、ビルが建っていて車通りも多い。

屋上からは見下ろしたことがあったけど、実際に歩いてみると全く違うように見える。

キョロキョロ周りを見渡しながら歩くのは、わくわくして少し楽しかった。

…今度は、碧琉くんと一緒に来たいなとも少し思った。



景色を楽しんでいるうちに、あっという間に施設に着いてしまった。

これから、ここで過ごすんだ…と思うと少し緊張する。

職員さんに着いて中に入る。

「靴はここに入れてちょうだい。これからお部屋に案内するから、着いてきて。」

そう言われ、靴を脱いで下駄箱にしまう。

木張りの床はつるつるしていて、転びそうだなあと少し思った。

いくつかの大きな部屋を抜けて廊下を渡った先に個室が並んだスペースがあった。

「穂海ちゃんの部屋はここね。4人部屋で、他の3人は今学校に行っているわ。自分のベッドと机周りは好きに使っていいからね。」

2段ベッドがふたつ並んだ部屋は、少し狭くてでも大きな窓のある明るい部屋だった。

私は入って右側の下のベッドらしい。

他のベッド周りには、各々趣味のものなのか、色々なものが飾ってあったり、机の上にも沢山の教科書が並んでいた。

「洋服はここ、その他の荷物とか雑貨はこの引き出しにしまってね。」

コクン

と頷いて、荷物を開け、収納をはじめる。

部屋の感じや勝手は前にいた施設とさして変わらない様子だった。

職員さんは、私が荷物を片付け終わるまで少し用があると部屋を出ていった。

私の荷物は少なかった。

警察の人が私の家から持ってきてくれた着古した2枚の服と下着。

それと、病院に居る時に着るものがないと困るから と支給された数枚の服たちをしまうとカバンの中身はもうほとんど空になってしまった。

そんな感じでほぼ一瞬で片付けは終わったけど、職員さんはまだ来なかった。

しょうがなく、やることも無いのでベッドに寝っ転がった。

洗われたばかりなのか、洗剤の匂いがする布団に潜る。

慣れない場所だけど、こうすると心が落ち着いた。

暗くて暖かくて安心する。

そのまま、目を瞑ると眠たくなってきた。

少し歩いただけだけど、ちょっと疲れちゃったからかな。

うとうとと眠気が襲ってくる。



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