私が恋を知る頃に
「ここには、3歳から18歳までの子たちが暮らしていてね、今いるここが小学生以上の子の部屋があるスペースで________」

説明を聞きながら、職員さんの後ろを着いて歩く。

部屋はわりと多くあって沢山の人が住んでいるのかな、と少し緊張する。

「今は、みんな学校に行っているから誰もいないよ。じゃあ、次行こうか。」

職員さんは、通り過ぎるひとつひとつの物を丁寧に説明してくれる。

「ここからは、小学生以下の小さい子たちのスペースね。幼稚園に通っている子は数人いて、でもまだ通えない子も多いからここにはわりと沢山の子たちがいるのよ。」

廊下の窓から覗くと、大部屋に数人の先生と小さな子どもが何人かいた。

小さい子は、各々絵を描いたり先生に本を読んでもらったり好きなことをしている。

でも、その中に壁の端で蹲っている子も数人いた。

「穂海ちゃんなら言わなくてもわかると思うけど、ここにいる子たちは多くが虐待を受けて保護されてきた子たちなのね。だから、まだ心を開いていない子も多いの。…子どもたちと触れ合っていく?」

私は、少し考えてから小さく頷いた。

職員さんは、ニコッと笑うと静かに部屋のドアを開ける。

「どうぞ、こっちに来て。」

促されるまま部屋に入ると、一斉に子どもたちの視線が集まる。

怯えたような様子を見せる子もいる中、1人の女の子が私の服の裾を引っ張った。

「……まま?」

ママ?

私が頭に疑問を浮かべていると、職員さんは優しく笑って女の子に目線を合わせるようにしゃがんだ。

「ごめんね、ママじゃないのよ。新しく、ここで一緒に暮らすお姉さん。みんなと一緒に遊びたいんだって。いいかな?」

そう聞くと、女の子は一瞬寂しそうな表情をしてから、もう一度私の服を引っ張った。

「…おねえちゃん、あそぼ」

「……うん、いいよ。」

そう言うと、女の子は無言で私の手を引いて机まで連れていく。

どうやら、さっきまで絵を描いていた子みたいだ。

女の子は無表情なまま、私に色鉛筆を渡す。

「おねえちゃん、おえかき じょうず?」

「…わからない。けど、絵を描くのは好きだよ。」

「ふーん」

それだけ言うと、女の子はクレヨンを持って無言で絵を描くのを再開した。
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