私が恋を知る頃に

星翔side

「お部屋入ってもいいかな?嫌だったら、いやでも大丈夫だよ。」

「…いいよ……………」

「ありがとう、じゃあお邪魔するね。…僕たちはどこにいればいい?遠くがいいならドアの近くに立ってるし、近くでもいいならもう少し近付くけど」

「…………ベッドまで…なら……たぶん、大丈夫」

「わかった。じゃあ、ここら辺に座らせてもらおうかな。」

そう言いながら、俺は女の子の顔が見える位置の床に直接座った。

椅子を使わなかったのは、一方だけ目線が上だと、相手に高圧的に感じさせてしまう恐れがあるからだ。

「よし、じゃあ最初に自己紹介しよっか。改めて、僕は精神科の瀬川 星翔です、それで、そっちにいる右側が君の主治医で小児科の清水 楓摩先生、左側が僕の弟で君の担当医になった瀬川 碧琉。みんな、これから何回も顔を合わすことになると思うけど、この3人だけは、何があっても君の味方だから安心してね。」

そう言って微笑むと、女の子は少し緊張した様子で頷く。

「じゃあ次は、君に自己紹介してもらってもいいかな?名前、教えて?」

「……ゆうき………………ほのみ…」

「ほのみちゃんか、漢字はどうやって書くの?」

俺は、持ってきていたホワイトボードをほのみちゃんに渡す。

『悠木 穂海』

漢字は書けるみたいだけど、ペンはグー持ちだ。

もしかしたら、小さい頃にそういうのをあまり教わんなかったのかもしれない。

「そう書くのね、わかった。ありがとう。」

穂海ちゃんが床に置いたホワイトボードを受け取って、碧琉に手渡す、それを見て碧琉はカルテに記入していく。

「じゃあ、穂海ちゃんは何歳?」

「…………わかんない…」

「お誕生日はわかる?」

「……3月…だった気がする…………」

この様子だと、日付けまではわからないみたいだ。

3月だとすると、誕生日は迎えてないな…

「学校は行ってる?」

「行ってない…………、中学校は…卒業した」

この様子だと、きっと日付感覚がないんだな。

「そっかあ、じゃあ中学校卒業してから何回夏が来た?」

「…………3……回?」

「じゃあ、17歳かな。3月生まれだとすると、まだ誕生日来てないしね。」

………………コクン

「よし、自己紹介おわり!色々教えてくれて、ありがとうね。どうする?今日はこれで終わりにして、また明日お話しする?それとも、今日まだお話ししたい?」

「…………明日にする…」

「うん、わかった。じゃあ、最後にお薬の話していい?」

「…いいよ」

穂海ちゃんが頷いたのを確認して、碧琉から点滴と飲み薬を受け取る。

「あのね、今、穂海ちゃんの体は、他の人より栄養が足りてない状態なの。だから、この点滴っていうやつで穂海ちゃんの体の中に栄養を入れたいんだ。でもね、これは体の中に直接入れるお薬だから、腕に針を刺してお薬を入れないといけない、だから針を刺す時少し痛いんだ。でも、このお薬を頑張ったら今、体ふらふらすると思うけど、そのふらふらは無くなるよ。……どう?頑張れる?」

「…………痛いの……いや…」

「そっか、じゃあ、今日はしないでおこうか。その代わり、飲むお薬が増えちゃうけど大丈夫?」

「そっちは…………痛くない?」

「うん、痛くない。」

…痛みが完全にトラウマになってしまっている。

これは、少し厄介かもしれない。

「じゃあ…………それにする」

「わかった。なら、飲むお薬の説明をするね。飲むお薬は、ご飯の時に一緒に出されるから、ご飯を食べたあとにお水で飲んでね。もし、難しかったら呼んで?それで、こっちが栄養のお薬、もうひとつが嫌な気持ちとか怖い気持ちを少し抑えてくれるお薬だよ。」

そう説明したけど、本当は、鉄分剤とブドウ糖だ。

鉄分剤は、普通に栄養の薬だけど、ブドウ糖の方は、まあ簡単に言うとお菓子のラムネだ。

プラシーボ効果といって、薬じゃないものを薬を言って飲ませると本当に効果が出るというのを利用した。

本当なら、抗うつ薬などが効くのだが、まずはそういう薬には頼らずに治ってくれるのを願う。

「じゃあ、お昼ご飯の時、また来るからその時一緒に飲んでみようね。」

そう言うと、穂海ちゃんは小さく頷いた。
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