私が恋を知る頃に
「…………」

女の子に話しかけようと思って、呼び方に困る

そういえば名前、聞いてなかった

「……お名前、なんて言うの?」

「…くるみ」

「くるみちゃん?」

そう聞くと、くるみちゃんはコクンと頷く。

くるみちゃんは、私には目もくれずずっと絵を描き続けていて、白い画用紙にはいっぱいにカラフルな色が広がっている。

私も描こうと、いつもみたいに色鉛筆を握ろうとして気付く

そうだ、碧琉くんに鉛筆の持ち方教えてもらったんだった…

今まではずっとグー持ちだった。

それ以外持ち方を知らなかったから。

正しい持ち方があるのは知っていたし、周りのみんなは当たり前にそれを出来ることも知っていた。

…でも、教えてもらったことが無かったから、真似しようと思ってもいつも上手くいかなかった。

でも、病院にいる時に碧琉くんは正しい持ち方を教えてくれた。

たまにだったけど、一緒に練習して少しだけできるようになった。

それを思い出して、練習した通りに握ってみる。

頑張って正しい持ち方をしてみるものの、まだ慣れなくて色鉛筆が震える。

私は、試しに昔からよく描いていた女の子を描くことにした。

いつかどこかで見た女の子。

アニメか絵本の女の子だった気がする。

強くて優しくて可愛くてみんなから好かれる

私はその女の子みたいになりたくて何度も描いていた。

画用紙に色鉛筆を滑らせる。

線が震えてガタガタになってしまって、この持ち方が嫌になる。

…でも、練習したら段々出来るようになるって碧琉くんが言ってたから……

頑張って練習して、上手くできるようになったことを碧琉くんに見せたい。

そう思って、ガタつく線を何度もなおしながら、気付けば夢中になって絵を描いていた。
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