私が恋を知る頃に
お腹の違和感に気付いたのは、その日から3日後のことだった。




その日は朝からなんだか憂鬱で、ずっと布団にくるまっていた。

すると、職員さんが心配したのか、様子を見に部屋にやってくる。

でも、私の好きな優しいおばあちゃんの職員さんは居なくて、若い女性の職員さんと男性の職員さんだけだった。

男の人を見ると、未だに体が拒否反応を起こそうとするから嫌だなあと思いつつ、言える訳もなく仕方なく目をそらす。

「穂海ちゃん、具合悪いかな。朝ごはんもあまり箸がすすんでいなかったようだけど…」

「大丈夫です…」

はやく1人にして欲しくてそう答える。

「……でも、大丈夫って言われて何かあったら困るんだよ。ただでさえ病気持ちなんだから…急に倒れられても私たちがいなかったらどうするの」

親切心で言ってくれているのはわかる

…でも、倒れてもいいから放っておいて欲しかった。

それくらい、今はなんだか心が荒んでいて、人に優しい気持ちで接することが出来ない。

いつもなら気付かないほどの些細なイライラの種が大きく感じて、心を荒らす。

それを出さないように布団に潜った。

「はあ……、もう18歳になるのよ?いい加減、子どもっぽいことはやめなさい…」

出たよ…年齢の話……

みんな、私が何か都合の悪いことをすると、年齢の話を持ち出す。

もう子どもじゃないんだから

いい歳なんだから

って

年齢、年齢って言われても、気付いたらこの歳だったんだもん

しょうがないじゃん…

ああ、また泣きたくなる

私を心配してくれたのはありがたい…でも、今は構わないで欲しいの……

「いい加減にしなさい。意地張ってないでちゃんといいなさい。」

低い男の人の声。

やめて…

怒らないで…

ごめんなさい


怒られることを察知したのか、体が強い拒否反応を起こす。

胸がギュッてなって息が苦しい。

体が震える

ああ、だから嫌だったのに

また、こうやって自分が制御出来なくなるから。

息が次第に荒くなっていくのがわかり、自分で自分を抱くように腕を巻き付けた。

脳内では、冷静な自分は「本気で怒っているわけじゃない、大丈夫。殴られない。」と言っているけど、本能は「殴られるから逃げろ」と言っている。

碧琉くん、どうしよう…

私、またやらかしちゃった……

上手く、できなかった…

そう涙がこぼれ落ちた。
< 188 / 282 >

この作品をシェア

pagetop