私が恋を知る頃に

碧琉side

コンコンッ

「お昼ご飯持ってきました、穂海ちゃん入ってもいいかな?」

「…大丈夫」

「じゃあ、失礼します」

ドアを開けて、お昼ご飯の乗ったトレーを持って病室に入る。

「ごめんね、兄貴…あー、えっと星翔先生、急用が入って来れなくなっちゃったから俺でもいい?」

「…………うん」

「ありがとう、じゃあ、お昼ご飯食べよっか。今日は、お雑炊だよ」

そう言いながら、ベッドの上のテーブルにトレーを置くと、穂海ちゃんは俺の顔を伺って

「……食べて、いいの?」

と言った。

「いいよ。全部食べて大丈夫だよ」

そう言うと穂海ちゃんは小走りでベッドに来て、すぐさま食べ始めようとする。

「あっ、ちょっと待って」

「……………………食べちゃ……ダメ?」

「ううん、違うんだ。じゃなくて、ちょっとうるさいかもしれないけど、ご飯食べる前はちゃんといただきますしよ?」

「…………あ、そっか」

…ご飯をあまり与えられてこなかった子は、本能的に食べることに必死になりがちになり、そういうことを忘れてしまう傾向があると聞いたことがある。

やっぱり、清水先生の予想通りネグレクトを受けていたのかもしれない。

「…いただきます」

そう言うと、穂海ちゃんはスプーンをグーで持って雑炊を食べ始める。

……ほんとは、注意したいけど、今うるさく言ったら、食べちゃダメなのか と不安を抱かせてしまいそうな気がするから、今日はそのままにすることにする。

「おいしい?」

コクン

大きく頷いて、物凄い勢いで雑炊を平らげていく。

やっぱり、お腹空いてたのかな。

もしかしたら、穂海ちゃんにとっては、久しぶりのご飯なのかもしれない。

そう思うと、少し胸が痛くなった。

「…………ごちそうさま…」

ものの数分でお昼ご飯全てを平らげた穂海ちゃん。

よかった、全部食べれるだけの体力はあるみたい。

「よし、じゃあお薬飲もっか。穂海ちゃんは錠剤飲んだことある?」

「…………じょうざいって何?」

「これ、玉みたいな形をしたお薬のこと。その様子だと飲んだことないかな?」

……コクン

「了解、じゃあ、お薬を口に入れて、この水で一緒に飲み込んでみて」

そう言って、まずは薬を1錠とお水を手渡す。

「…………んん……飲めない…」

案の定、最初はうまく飲み込めないみたいで、水だけが無くなっている。

「んー、じゃあ、お水を最初に口に入れてから上を向いてお水がこぼれないようにしながら、薬をお口に入れてみて?」

コクン

すると、次は上手く飲み込めたようだ。

「よし、偉い!お薬は、これからご飯の度に一緒についてくるから、その時はまた今みたいにして飲んでね?」

「……うん」
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