私が恋を知る頃に
しばらくすると、パタパタと走る音が聞こえてきた。

「穂海ちゃん、どうした?」

見ると、優しいおばあちゃんの職員さん。

「……っ、お腹…いた……」

「お腹?どこら辺が痛む?体動かせそう?」

私は力なく首を振る

「…なあ、救急車呼んだ方がいいんじゃない。酷い汗かいてるし、やばそうだよ。」

「……そうね、穂海ちゃん、病院行こうか?」

コクン

私は必死の思いで頷いた。

その時

「……ん、何騒いでんの…」

「…何か、あった?」

ああ、上の段の二人も起こしてしまった…

迷惑かけちゃって、嫌な思いしてないかな…

「こいつが腹痛いんだって。今、救急車呼んだ。」

「救急車?そんな、酷いの?」

「…本当だ、顔も真っ青……」

電気が付けられて、上の二人も降りてくる。

「毛布、かけようか?」

「先生、湯たんぽは?」



怒られると思っていた。

でも、みんな優しくて余計に涙が出そうになる。

痛いのさえ収まれば、お礼を言えるのになあ。

ズキズキと痛むお腹を抱えながらそう思う。

そんなことを考えている間にも痛みはまして、お腹の中を刃物で掻き回されているような痛みになる。

痛い…痛い……

ギュッと握りしめた手は、強く握りすぎて血が滲んでいた。
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