私が恋を知る頃に
しばらくすると救急車のサイレンが聞こえてきて、職員さんが何かを言っている。

でも痛みで朦朧とする頭では、職員さんや部屋の子の呼び掛けに上手く答えられない。

ただ、いつまで続くかわからないこの痛みから早く解放して欲しくてそれだけしか頭になかった。

すると、また廊下が騒がしくなって、足音が聞こえてくる。

「悠木さん、悠木さん、わかりますか?」

その声に目を開けると、そこには沢山の男の人。

「…あ………………」

痛みで朦朧とする頭では、状況がうまく整理でくなくて、ただ男の人がいる というそれだけで、脳が勝手に昔の記憶をフラッシュバックさせてくる。

怖い

一度、その感情を抱いてしまったら、もうそれに支配されてしまう。

怖い、怖い

いや、近づかないで

息が苦しくて、体が震える。

"ゴミが、さっさと死ねよ。"

どこからかその声が聞こえてきて、抑えていた感情のストッパーが外れた。

いやだ、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い

逃げなきゃ、逃げなきゃまた痛いことされる

殴られる蹴られる沈められる

逃げなきゃ

そう体を動かした瞬間、激痛が走る。

「っっっ……」

パニックで、混乱した頭では痛みの原因を勘違いして、さらにパニックになる。

いやだ、殺される殺される

痛い痛い痛い

どうしよう、逃げなきゃ

そう体を動かして藻掻くのに、沢山の人に押さえつけられる。

何か怒鳴られて、また体が酷く震える。

ごめんなさい、ごめんなさい

私が悪かったの

私が生まれてきたから悪かった

ごめんなさい、ごめんなさい

生きていてごめんなさい

あれ、また上手く息ができない

どうやって息するんだっけ





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