私が恋を知る頃に
「穂海、施設どう?ちゃんと、施設の人は穂海のこと理解してくれる?」

その質問に少し困った。

優しいおばあちゃん_ここに迎えに来てくれた職員さんはいつも優しくしてくれる。

でも、まだ私の事情をあまり理解してくれない職員が居ることもまた事実で、どう返事をしようか迷った。

「……微妙」

「微妙、か。やっぱ、まだわかってくれない人もいる?」

コクン

"いい加減にしなさい。"

そう言われたのを思い出す。

いい加減にするも何も、まだ怖いんだもん。

人と話すだけで怖いのに、急に部屋に来られて命令されて怒られて…

すごく怖かった

ほら、思い出すだけで息が荒くなって涙が滲む。

「…どうした、嫌なこと思い出しちゃった?」

コクン

そう頷くと、碧琉くんは私の涙を拭って頭を撫でてくれる。

「ごめんね、そばにいてあげられなくて。…こんなに、ストレス貯めるまで気付いてあげられなくて……。」

ううん

と首を横に振るも、余計に涙が溢れた。

ずっとここに居たいな

碧琉くんは、私を許してくれるから。

荒んでいた心が浄化されていくみたい。

ずっとここにいたら、嫌なことなんて考えなくて済むのに。

嫌なことを思い出しても、慰めてくれる人がいるのに。

私は無意識のうちに碧琉くんの手をぎゅっと握りしめていた。
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