私が恋を知る頃に
すぅすぅと眠りにつく穂海の髪にそっと手を這わせる。

穂海の体は痛々しい見た目になってしまっていた。

手には何本も点滴が繋がれ、お腹からは、腹腔内の膿を出すためのドレーンが出ている。

痛そうで、可哀想で…

なんでこの子がこんな辛い目ばかりに合わないといけないのか、とまた考えた。

すべて、穂海を虐待していた奴らのせいだ。

そのせいで、他の人よりも出来ることが少ないことに悩んで

そのせいで、いじめを受けて

そのせいで、また人が怖くなって

そのせいで、人と話すだけで心に大きな負担を与えるようになってしまった。

それらが大きなストレスとなってまた穂海を苦しめる。

穂海を虐待していた奴らが、心の底から憎かった…

前苑もとい清水の時も思ったけど、虐待は簡単に人の人生を奪って、簡単に人を死に至らしめるきっかけをつくる。

虐待のせいで死んでしまうことだけではない、虐待を受けた後、心を病んでしまった人が自傷をすることもまたそのひとつだ。

思わず大きな溜め息が出る。

なんで、こうも辛い事件が後を絶たないのだろう。

辛い目に遭う子が沢山いるんだろう。

沢山、痛いこと怖いことをされて人を信じれなくなる。

これほどまでに悲しいことがあるのか。

…でも、皮肉なことにそういう子たちの一部は、ずっと虐待をしてきた親にまだ期待をしている。

愛して欲しくて、可愛がって欲しくて、ずっとずっと待っているんだ。

穂海もその1人だった。

どうしたら、この苦しみの連鎖から穂海を解放してあげられるのかな…

針の刺さった小さな手をそっと撫でた。
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