私が恋を知る頃に

穂海side

ハッと目を覚ますと、心配そうに覗き込む碧琉くんの顔。

また嫌な夢を見た。

出来ないことをみんなに責められて、最後には碧琉くんにまで"見損なった"と言われる夢。

碧琉くんは絶対にそんなこと言わないって思いたいけど…

正直、自信がなかった。

私は相変わらず、何も出来ないままだし、こうやって病気にかかって迷惑かけるし…

自分が"使えない"存在だってことは、昔から重々承知していた。

きっと碧琉くんは、優しいから私にこんなに尽くしてくれるんだろうな。

"使えない"のに、居るだけで迷惑な存在なのに、私の居場所がないから同情して優しくしてくれる。

家に来ていいよって言ってくれたのも、きっとそういうことだろう。

でも……

今は良くても、もし本当に家に居させてもらえることになった時、碧琉くんは私のことを嫌になっちゃわないかな…

本当に何も出来ないこと、迷惑しかかけないことを知った時、私は捨てられちゃうんじゃないかって思うんだ……

怖かった…

優しい手の温もりも、温かい言葉も全部全部、今だけしか向けられないんじゃないかって……

だって、なんで碧琉くんが私を好きでいてくれるのか理由がわからない…

この時間が終わった途端、離れていってしまうんじゃないかって不安が募る。

こんなに優しくしてくれるから、私のことを認めてくれるから

どんどん碧琉くんを好きになっていってしまう…

ずっとそばにいて欲しいって願ってしまう……

もし、これ以上好きになってしまったら、いつか捨てられた時、私は壊れちゃうんじゃないかな……

今度こそ、本当にひとりぼっちになった時、心まで壊れてしまったら、私は生きていけるのかな…

人を信用するのはとても怖いことだ。

いつ裏切られるかわからない

いつ、突然いなくなってしまうかもわからない…

その時、辛くなるのは自分だけだ。

だから…………

心に1枚壁を作ろう…

もし、離れられた時の心の防衛策。

幸い、まだ手遅れじゃない。

これ以上、のめり込んでしまう前に……










人を信じることは、まだ私にとっては難しすぎることだった。
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