私が恋を知る頃に

穂海side

「失礼します。」

少し間延びした久しぶりの声がする。

布団から少し顔を出して覗くと、カーテンから園田先生が入って来るところだった。

「あ、穂海ちゃん、お久しぶり~」

……コクン

なんで、園田先生?

「穂海ちゃん、居るって聞いて久しぶりにお話したくて来ちゃった。」

…そう笑う園田先生は、いつものマイペースな様子でベッドサイドの椅子に座る。

「急に来ちゃってごめんね。…お布団潜ってたみたいだけど、寝てた?」

フルフルと首を振ると、園田先生は「なら良かった」と笑う。

「本当はお菓子とか持ってきてお喋りしたかったんだけど…生憎絶食中みたいだし、それはまたの機会にね。」

そう言うと、園田先生はいつものように他愛のない日常話をしてくる。

些細な発見や面白かったことなど、先生から聞く話はいつもおもしろかった。

「最近穂海ちゃんはどう?施設、どんな感じ?」

「…………」

言葉が詰まる。

うまく誤魔化して、良く言おうと思ったけど、ニコニコと笑う先生の前ではうまく嘘が付けなかった。

「……あまり、うまくいかなくて…」

「…どういう所が?」

先生が些細な出来事を教えてくれたように、私も施設であったことを細かく話す。

周りと比べてしまい劣等感を感じてしまうこと。

嫌な夢をよく見るようになってしまったこと。

職員さんとも、上手くいかないことがあったこと。

ひとつひとつを話しているうちに、何だか涙が出てきて、止まらなくなってしまった。

止まって欲しいのに抑えたいのに、感情の制御が上手く出来なくて涙が溢れてしまう。

先生は、その全てに頷いてゆっくり聞いてくれる。

自分の胸のうちを話すのは苦しいけど、少しだけ楽になれる気がした。
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