私が恋を知る頃に
そんなある日

今日はなんだか少しだけ碧琉くんの声が嬉しそうだ。

「ねえ穂海、今日は穂海にお客さんが来ていたよ。」

予想もしていなかった言葉に心の底から驚く。

私にお客さん……?

誰?

1人として心当たりはない。

「…施設の職員さんとね、穂海のルームメイトのお友達が来ていたよ。お友達、穂海をすごく心配してた。お花も持ってきてくれたんだよ。綺麗だから飾っておくね。」

……信じられなかった。

なんで、私のためにわざわざ?

……あ、私が急に倒れて心配かけたからかな…

でも、それにしてもお花まで、なんで?

「あとね、まだあるよ。職員さんがね、施設の女の子から絵とお手紙を預かってきてくれたみたい。穂海、小さい子とも仲良くなってたの?可愛い絵だね。一生懸命、描いてくれたんだね。はやくお姉ちゃんと遊びたいって言ってたんだって。手紙も頑張って書いてくれたんだね。"おねえちゃん またいっしょにおえかきしようね"だって。封筒に沢山シールも入ってたよ。日曜日の朝にやってる女の子のアニメのキャラクターかな。"一歩踏み出す勇気あればきっと世界はもっと輝く"だって。……いい言葉だね。」

"一歩踏み出す勇気あればきっと世界はもっと輝く"

その言葉を聞いた時、何故かひどく懐かしい気持ちが胸に溢れて泣いてしまいそうになった。

ああ、そうだ。

そのアニメの女の子の口癖だ。

昔、お母さんと一緒に見ていた頃よくお母さんも言っていた。

一緒にそのセリフを言って笑っていた。

懐かしいなそのセリフ。

私もお母さんも大好きだった。

懐かしくて暖かい記憶に涙が溢れ出した。

溢れて溢れて、止まらなかった。
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