私が恋を知る頃に
折り紙を折るのは想像以上に楽しかった。

折るのに集中していれば何も考えずに済むし、少しずつ出来上がっていく鶴を見ると小さな達成感が得られた。

そうして黙々と作っていると、突然コンコンッとドアがノックされた。

「失礼します、穂海ちゃんお昼ご飯持ってきたよ」

そう言って入ってきたのは、栗色髪を後ろでお団子にした知らない看護師さん。

少し怖くて、手が止まる。

すると、そんな私の様子に気付いたのか看護師さんはご飯のお盆を机に乗っけてからニコリと笑った。

「ごめんね、そういえば挨拶まだだったね。稲村由依(いなむら ゆい)って言います。少し前から担当だったんだけどね、なかなか起きている時に会えなかったから一応初めまして、かな?」

そう言って稲村さんはまた優しそうな笑顔で微笑んだ。

挨拶をすべきなんだろうけど、なんて言葉を言えばいいかわからず、私はとりあえず小さく頷いた。

「…これ、穂海ちゃんが作ったの?」

そう言う稲村さんの視線の先には私がさっき折った鶴たち。

コクリと頷くと稲村さんはまた笑って

「すごいね、こんなに沢山。穂海ちゃん器用なんだね~」

まさか、褒められるとは思っていなかったから少し恥ずかしくて顔があつくなる。

「ふふっ、瀬川先生が作ったのとは大違いね。このしわくちゃのは瀬川作でしょ?」

コクン

「やっぱり。先生、腕はいいのにこういう所は不器用なのかしらね。穂海ちゃんのみたら、先生もきっとびっくりするよ。」

優しく話しかけてくれる稲村さんは、不思議ともう怖くなくて、むしろ優しい雰囲気に少し安心するようになっていた。

「あ、ごめんね、少し話しすぎちゃった。とりあえず、ご飯ここに置いておくからひと段落したら食べてね。じゃあ、また後で来るね。」

そう言って稲村さんは手を振って病室を出ていった。
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