私が恋を知る頃に
薄暗い時間に目が覚めた。
時計を見るとまだ5時だ。
また、懐かしい夢を見た。
あれは、確かまだお母さんがおかしくなる前……
夢でみたあの日の続きは今でも鮮明に覚えている。
お風呂で眠ってしまった私が目覚めたのは、騒がしい病院だった。
お医者さんや看護師さんがいっぱい叫んでて、何を言ってるかわからなくて、体は重くてだるくて…
でも今思えば、それはきっとお母さんが私を殺そうとして、私は死にかけていたんだと思う。
幸い、私は助かったわけで、お母さんも自殺には失敗、2人とも助かった。
ここだけ切り取ればいい話に聞こえなくもないが、これは地獄の幕開けを意味していた。
お金や生活のことで困って、私もろとも死のうとしたお母さんは、失敗することなんて考えていなかったみたいだった。
失敗したせいで、私とお母さんの入院費や治療費が余計にかかり、私の家計はさらに圧迫された。
入院費治療費は借金をしなければ払えない額で、家に帰ってからしばらくして家には頻繁に借金取りのおじさんが来るようになった。
お母さんは段々とおかしくなっていった。
お酒やタバコの量が増え、私を怒鳴って手を上げるようになった。
"あんたさえいなければ"
そんな言葉をかけられるようになったのも、ここら辺からだ。
そしていつの間にか、知らない男の人がよく来るようになって、その頃になると何故かお母さんは羽振りが良くなっていった。
何があったのかは今でもわからないけど、男の人が来るようになってお母さんは綺麗な洋服やアクセサリーを身につけるようになった。
そして、お母さんは私を無視するようになった。
お母さんと男の人は楽しそうにおしゃべりをしてテレビを見てご飯を食べているのに、私はもらえなかった。
お腹を空かせながらただジッとやり過ごすしか無かった。
昔のことを思い出していると、何故かひどく悲しい気分になってきた。
この前、手を切る前の感情に似た胸を締め付けるような暗く重たい気持ち。
この前碧琉くんに"自分を傷つけちゃダメ"って怒られたのに、また自分を苦しめる言葉ばかり浮かんでくる。
やっぱり私、ここにいていいのかな…
私がいる意味ってあるのかな
いなくても、いいんじゃないのかなって
ああ、またこの苦しさだ
自分から出た言葉がどんどん自分の心を押し潰していく。
がんじがらめになったみたいに、1回このモードに入るとなかなか抜け出せなくて
苦しい、苦しい
助けて……
無意識に涙が溢れ出した。