私が恋を知る頃に
「……また、嫌な言葉ばっかり思い浮かんじゃって…自分が嫌になっちゃって……苦しい……」

「……それで、俺が怒ると思ってたの?」

そう聞くと穂海は小さくコクンと頷く。

俺はなんだかいたたまれない気持ちになって、思わずギュッと穂海を抱きしめた。

「ごめんね、俺がこの前怒ったから不安になっちゃったんだね。大丈夫だよ、そんなことで怒らないから。この前はね、穂海が自分で自分を無理やり傷つけて苦しくなってるように見えたから怒ったの。自分のことを無理に悪く言ってるように聞こえたからさ。……ごめんね、苦しかったね。」

そう言うと、穂海はさっきよりも大きくしゃくりをあげて涙を流した。

「大丈夫だよ、大丈夫。どんなこと思っちゃったの?教えて。」

「…私、本当に……ここにいて、いいのかなって……。私がいる意味ってあるのかなって、私がいなくても、いいんじゃないかなって……」

穂海は泣きながらぽつりぽつりと絞り出すように言葉をこぼす。

「うん。うん。不安になっちゃったんだね。そっか。どうして、そう思っちゃった?」

「……なんか、昔の夢、見てね、悲しい気持ちになっちゃった…。お母さんの夢、見て……お母さん、まだ優しくて…なんで……なんで、こうなっちゃったんだろうって…"あんたさえいなければ"って……私がいなかったら、お母さん幸せだったのかなって……」

聞いているうちに胸がキューっと締め付けられるように痛くなる。

「お母さん…お母さん……」

そう言って泣く穂海に、俺はどう声をかけていいのかわからなくて、ただ抱きしめるしかなかった……
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