私が恋を知る頃に
「お待たせ。今お薬入れるからね。よく頑張ったね、もう楽になるよ。はい、じゃあちょっとだけチクッとするよー。ごめんねー」

「……っ!」

「よし、えらい!よく頑張ったね。もう大丈夫だよ。だんだん落ち着いてくるからねー。」

……俺はその流れをただ黙って見ているしかなかった…。

声かけすらうまくできず、先生のサポートさえも……

「よしよし、少しずつ落ち着いてきたね。大丈夫?気持ち悪いとかはない?」

コクン

「ならよかった。」

……先生の声かけと処置によって、穂海の容態は徐々に良くなっていく。

表情も、穏やかになっていき、安心の気持ちが見える。

もし、園田先生の立場が自分だったら…、どんなに良かっただろう。

本当に何もできない自分が情けなくて腹が立つ。

「……瀬川くん、なんて顔してるの」

「えっ」

顔を上げると苦笑いの園田先生。

「あっ…、す、すいません!」

「もー、せっかく穂海ちゃんが落ち着いてきたのに、今度は瀬川くんが酷い顔してるよー」

「……」

先生は笑ってくれたけど……本来、笑えない問題だよな……

患者である穂海の前で、俺…また、不安な顔を……

「こらこら、さらに酷い顔だよ!もー、そんな顔してたら眉間に皺入っちゃうよー。ほら、笑って笑って!」

……ほんと、情けない

園田先生にこんなに気を遣わせて、穂海に情けない顔見せて…

やばい…鼻の奥がツンとなって……

「あー、もー、泣かないでー!!なんで泣くのー?泣きたいことあった?ほら、大丈夫、大丈夫。瀬川くんも思い詰めちゃった?大丈夫だよ、泣かなくていいよ。」

園田先生に渡されたティッシュで涙を拭く。

やばい、こんな気持ちになったの久しぶりで、また涙が溢れそうになる。

「瀬川くんでも辛くなっちゃったんだね。うん、そうだよね。この手の話題はみんな辛くなっちゃうね。大丈夫だよ。大丈夫。二人とも大丈夫だからね。」

本当、情けない。

でも、先生の優しさが本当に温かくて…

ああ、俺、まだ未熟だ。

今までも何回も感じていたけど、今回ので改めて実感した。

もっと、成長しなきゃ。

もっと学ばなきゃ。

落ち込むのは今日で最後にしよう。

落ち込んでる暇なんてない。

これからもっと多くの人を助けていくために、まだまだ努力しなきゃいけない。

改めてそう強く決心した。
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