私が恋を知る頃に
コンコンッ

「穂海、入るよー」

そう声をかけながら、ドアを開け部屋に入る。

「……碧琉くん?」

穂海は、まだ少し眠たげな表情をしていたものの、薬はだいぶ抜けてきたのかベッドを起こして体を預けていた。

「体調はどう?吐き気とか、頭痛とかない?」

そう聞くと、穂海は不思議そうな表情でコクンと頷いた。

「大丈夫…だけど、どうしたの?まだ、夜の回診の時間じゃないでしょ?それに、園田先生まで……。」

ああ、俺たちが変な時間に部屋を訪れたから驚いていたのか。

「僕は穂海ちゃんの様子を見に来ただけだよ。お薬使ったからさ、その後辛くなってないかなって確認しに来たの。」

納得したように頷く穂海。

その視線は次に俺に無言の問いを投げかける。

「俺も穂海の体調を確認しに来たのと、あとひとつお知らせ?というか、話があってさ。」

「……なんの話?」

俺の言葉に、穂海の表情が僅かに曇る。

「悪い話じゃないよ!普通に聞いて。」

「うん……」

まだ疑いを捨てきれていない表情ではあるが、回りくどいので単刀直入に言うことにした。

「あのね、今、穂海の施設のお友達が遊びに来ているんだ。」

そう言うと、穂海は少し固まって、それから困惑と驚きを合わせたような慌てた表情になる。

「友達?」

「うん。同じお部屋の子かな。ほら、穂海と同い年くらいの。」

そこまで言うと、穂海はわかったのか驚きの表情を浮かべたままコクコクと頷きを返す。

「わかったみたいだね。そう、それで、その子たちが穂海と面会したいみたいなんだけど、今大丈夫かなって。穂海の体調的にも、精神的にも。それを聞きに来たんだ。」

穂海の表情を伺うと、穂海は少し考えている様子だ。

さっき体調を崩したばかりだ。

穂海も慎重になっているのかもしれない。

まだ、しばらくかかりそうな様子に俺は園田先生に目配せをする。

すると、園田先生もそれに気付き、小さく頷いてからそっと病室を出た。
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