私が恋を知る頃に

碧琉side

ナースステーションで、少し穂海の病室の方を気にしつつ仕事を進めていると、しばらくして女の子が1人でてきた。

もう話し終わったのかな、と思ったけど3人入っていったうち出てきたのは1人だけ。

何か、喧嘩でもしたのか、と少し不安になったが、その女の子の表情がやけに清々しげだったから、喧嘩ではなさそうだ。

その女の子は病室を出るとそのまま、廊下のベンチに座り、何事も無かったかのように携帯をいじり始めた。

なんだか、不思議な雰囲気を纏う子だけど、悪い子には見えない。

仲良くなったら、きっと面白い子なんだろうななんて妄想を膨らませて、少し青春の中を生き生きと生きる彼女たちが羨ましくなった。

青春なんてあっという間だ。

穂海にとって、青春っていうのはもしかしたら今まで感じたことが少ないのかもしれない。

そしたら残す青春の時間はあと少しだけど、劣悪な状況を抜け出せた今、これからでいいから少しの青春を楽しんでもらいたいな。

そう思っていると、病室から楽しげな笑い声が聞こえてきた。

きっと、この子たちは穂海の青春の良い思い出を作ってくれる。

確証はどこにもないけど、なぜだかそう思った。
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