私が恋を知る頃に
思い出せそうだけど、思い出せない問題に頭を捻って考えていると、ふと咳き込む音が聞こえた。

「ケホッ……コホッ………」

みると、さっき私に優しく声をかけてくれた隣の女の子が顔を赤くして咳き込んでいた。

「だ、大丈夫?」

そう聞くも、女の子は首を横に振る。

先生は……

みると、先生は奥の席の男の子に勉強を教えていて気付いていない。

碧琉くんと園田先生は……

後ろの壁際に立って授業の様子を見ていた、碧琉くんに目線を送る。

すると、碧琉くんは気付いたのか駆け足で来てくれて

「どうした。急に咳出ちゃったかな。」

女の子を見るやいなや、碧琉くんは一気にお医者さんの顔になって女の子の背中をさする。

「苦しいね、椅子から降りてちょっと横になろうか。ごめんね、体支えるよ。」

女の子は碧琉くんに支えられて、椅子をおりてから床に座った碧琉にもたれ掛かるように体を横たえた。

どうしよう……

焦りはあるものの、どうしていいかわからずオロオロしていると、また碧琉くんと目が合った。

「穂海、楸先生呼んできて。それと、普段この子が飲んでる薬があるかも聞いて欲しい。」

「……わかった!」

さすがに、何かあったのか と教室がザワザワしてくる。

私が、ちゃんと伝えなきゃ

緊張しつつも、先生の方へ行こうとするとザワザワに気付いた楸先生と目が合った。

「あっ、先生……あの、女の子がっ!!」

あ、薬の話も聞かなきゃ……

そう思ったけど

「穂海ちゃん、大丈夫?あとは、僕に任せて。」

事態を知ったのか、園田先生も来てくれて状況を楸先生に話してくれる。

話を聞いた楸先生は立ち上がって何処かに電話をかけているようで……

また、どうしたらいいか迷って立ったままでいたら、ふとポンポンと肩が叩かれた。

「穂海ちゃん、ありがとう。一旦は大丈夫だから、席戻ろうか」

園田先生は優しくそう言って私をまた席まで送ってくれる。

それから、女の子の診察をしていた碧琉くんと少し話をして、園田先生は小走りで教室を出ていく。

どうしよう…女の子、苦しそう……

席に戻ったはいいものの、何も出来ない自分が不甲斐ない……

かといって、ずっと見てるのも女の子も嫌だろうし……

「穂海」

呼ばれて顔を上げると、優しい顔の碧琉くん。

「大丈夫だよ。穂海が楸先生呼んでくれたから、主治医の先生にも連絡がついたし、園田先生も薬取りに行ってくれてるから。安心して。」

その言葉にこくんと頷けば、安心したのかぽろっと涙が零れた。

「大丈夫だからね。大丈夫。」

今度の言葉はきっと、女の子にかけてるんだろうけど、その言葉は私の心も落ち着かせて安心させてくれる効果があった。
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