私が恋を知る頃に
「あれ、瀬川と陽向が話してる。珍しい。」

そういって休憩室に入ってきたのは清水先生。

「お、楓摩!お疲れー」

「お疲れ様です。先生もコーヒー飲まれますか?」

「ありがとう。いただくよ。」

立ち上がる俺と入れ替わるようにソファに座る先生を横目に見つつ、マグカップを機械においてボタンを押した。

「珍しい組み合わせだけど、何話してたの?」

「えー、逆になんだと思う?」

先生たちのやり取りはいつもゆるい。

長年の付き合いだからこその間合いだろうか、聞いてるこっちも和んでしまう。

「……陽向のことだし、どうせ惚気とかそんなもんじゃない?」

「ひっでえー、お前は俺のことをなんだと思ってるんだよ。違うよなー、碧琉。」

急にこっちに話が飛んできて驚いた。

危うくこぼすところだったコーヒーを持ち直して、テーブルにそれを置いた。

「いやあ……、どちらかというと清水先生の正解じゃないですか?」

「ほらね。当たったじゃん。」

清水先生のコーヒーに対する礼に会釈を返しつつ、俺もソファのもう反対のほうに腰を掛ける。

「違いますー。俺は穂海ちゃんの最近の様子を気にかけて話をきいてただけだし。」

「はいはい。そういいつつ、院内学級の話が出てきたから愛依ちゃんの話をしたかっただけでしょ?」

そう言われて、佐伯先生は不服というように頬を膨らませた。

「いい歳したおっさんがそんな顔してもかわいくないぞー」

「は?瀬川今の言葉聞いた?流石にひどくない?俺傷ついて泣いちゃうよ?」

「そんなこと言ってるうちは傷ついてないの。」

相変わらず仲良しだなーなんて思って、思わずクスっと笑みがこぼれてしまう。

「あ、笑ったなー?」

「笑われてんじゃん。」

「べ、別にバカにしたわけではっ……」

焦って弁明をすると、今度は先生方二人が揃ってプッと吹き出した。

「わかってるよ。俺らの仲の良さ、羨ましくなっちゃった?」

そう佐伯先生が言えば、清水先生はやれやれと言った表情で首を振った。

「瀬川はこんな大人になっちゃダメだよ?」

”こんな”と指さされた佐伯先生はまた拗ねた表情をして、清水先生はまたそれを適当にあしらった。

こういう仲の良い同期がいるのは羨ましいなと感じる日常の一コマだった。
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