私が恋を知る頃に

穂海side

廊下の灯りが消されて、普段は元気な小さい子たちの声も聞こえなくなった夜。

いつもなら、暗闇に安心するように、お布団に入ればすぐに眠れてたんだけど、今日は何故か、目を瞑ってもなかなか寝れなかった。

真っ暗な部屋も、だんだん目が慣れてきて、暗い中でも周りのものが見えるようになってくる。

でも、だからといって、夜だから静かにしなきゃいけないし、やることもなくて、私はボーッと天井を眺めていた。

何もせずに天井を見ていると、頭の中を色々な事がぐるぐると駆け回る。

今日のこと、昔のこと、これからのこと……

今日の院内学級の授業は楽しかった。まだ、分からないことが沢山だけど、それでも1つ知ったらちょっとだけできることが増えて、それが凄く嬉しかった。

隣の席の女の子のことは心配だったな。最初に優しく声をかけてくれて、とっても嬉しかったから、次に会ったらお礼を言いたい。

また、明日授業に行ったら会えるかな。うまく、お話出来るといいな。

……院内学級は、思っていたより怖いところじゃなかった。それは、女の子のお陰でもあるし、先生がすごく優しかったのもある。

周りの子たちは、まだあんまりお話してないし、元気な男の子は、昔の学校にいた男子を思い出して少し怖かったけど、それでも、先生が私のこと見ててくれてから、安心できた。

昔行ってた学校の先生は、私のこと嫌いだったみたいで、私なんて居ないみたいにされてたから……

クラスの子たちも、みんな私が嫌みたいで、色んなことされた…。今も、思い出すと心臓がキュッてなるから思い出したくないけど……

だから、学校は嫌いだったし、怖い所だと思ってた。

……というか、本当はまだ学校自体は怖いけど………。

でも、院内学級は怖くないかもなって思えて嬉しかったんだ。

間違えても怒られないし、私に何か言ってくる人も、嫌なことしてくる人もいなかった。

院内学級でなら、お勉強も楽しくできるのかなって思えた。

……でも、ずっと院内学級に通えるわけじゃないんだよな、とも思った。

病院は、病気の人がいる所。

私も今は、まだお腹の傷のこともあるし、心の病気……?のこともあるから、ここにいられるけれど、きっとそう長くはないんだなってのはちょっと気がついてた。

お腹の傷はもう、ほとんど治っているし、心の病気はよく分からないけど、きっと、私よりもっと病院が必要な人がいたら、私はここを出なきゃいけないなって思う。

そしたら、私は施設に戻って、また、学校に行ってる子たちを見送って部屋で一人で過ごす毎日だ……

そして、何も出来ないうちに18歳になって、施設も出なきゃいけなくなる。

……その先に私が行く場所は?

碧琉くんは優しい。優しいからおいでって言ってくれるし、私も碧琉くんのそばにいたい。

でも、何も出来ない私が何もしないで碧琉くんのお家に居座るのは、どう考えても迷惑だ。

じゃあ、碧琉くんが居ない間に、お家のこと代わりにやる人になればいいかな、そしたらお家に居ても迷惑じゃないかな?

………………。

本当にそれでいいのかな。

今は、碧琉くんが甘えさせてくれる。私に優しくしてくれる。

でも、もし、いつか、

ないって思いたいけど、何かがあって、碧琉くんが居なくなってしまったら、私はどうなるんだろう。

自分で生きていけるのかな。

碧琉くんがいなくちゃ、生きていけないって、私……

怖いことから目をそらすみたいに私はギュッと目を瞑った。

やっぱりずっと考えてると嫌なことまで考えちゃう。

はやく、寝たいのに……
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