私が恋を知る頃に
「話してくれて、ありがとう。……俺なりに、答えになるかは、わかんないけど…考えまとめてみたから、話してもいい?」

そう言うと、穂海は小さく頷いた。

「うん。……じゃあ、話すね。」





まず、最初に伝えたかったのは、理由なしに、穂海はここに居ていいんだよ、ということ。

ここっていうのは、病院っていうわけじゃなくて、穂海にとって、俺の側が安心出来る場所になっているなら…、いつでもそこに居ていいっていうこと。

自分のできること、できないことなんてかんがえなくていい。そばにいる理由に、メリットもデメリットもない。

俺が穂海にそばにいて欲しいって思っていて、穂海が俺のそばにいたいって思ってくれているなら、それでいいの。

ふたつめに、穂海がもし、どうしても周りを気にしてしまうなら、穂海のやりやすい方法で、穂海が気にしている部分を埋め直すことはいつでも出来るってこと。

勉強ができないことが穂海に劣等感を感じさせるなら、いつでも学び直すチャンスはある。直接学校に通わなくても、今は沢山の手段があって、通信制の学校を選んでもいいし、自分で家で学びたいことを学ぶのもいい。もちろん、苦しくならないなら別の学校に入ってやりなおしてもいい。

お金のことは気にしなくていいけど、もし、それもまた、穂海がすごく気にしちゃって苦しくなっちゃうなら、体が回復してきたら、何かを見つけてはじめたらいいと思う。

家の中で家事をしてくれるでもいいし、外に出て人と交流をしたかったらバイトを始めてみてもいい。

もちろん、今は穂海の体と心の体調回復が一番だけどね。

徐々にできることを増やして、やりたいことをやっていけばいいし、穂海にはそれが出来ると思う。

きっと、穂海が元気になったあと、穂海には沢山の未来が待っている。

今までの過去があったからって関係ない。

穂海は、穂海の人生を歩いていいんだから。





俺は努めてゆっくり話した。

穂海の思いを無下にしないように、穂海の不安を取り除いてあげられるように、考えながら話した。

話終わると、病室はしばし無言に包まれて、静かな時がゆっくりと流れた。

でも、何も変化がなかったわけではなかった。

穂海は俺の話を、真っ直ぐに受けとってくれた。

それから、だんだんと込み上げてくる感情をこぼすように涙を流しながらしゃくりをあげた。

「……大丈夫だよ。大丈夫。」

そんな穂海に、俺はいつもの言葉をかけ、背中をさすってあげることしかできなかった。
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