私が恋を知る頃に
外から足音と怒鳴るような声が聞こえてくる。

…………帰ってきたんだ。

私は、布団の中で体をさらに小さく丸めて固くした。
今日は、ハズレ。
いつもより機嫌が悪そうだ。

あーあ、嫌だなあ。
ただでさえ、今も痛いのに…
これから起こることを想像し、体が震える。

ガチャッ

「おい!!いるんだろ!?出てこい!!!!」

あぁ、最悪。
今日は最高級に機嫌が悪そうだ。

大きな足音が近付いて来て、そのまま布団越しに思いっきり蹴りを入れられる。

「うっ……」

思わず、お腹を庇って蹲るも、その上から何度も踏まれたり蹴られたり…、また目に涙が浮かんでくる。

「何泣いてんだよ!!お前が悪いんだろ!!なんで、こんなに怒ってんのかわかんねえのか!?」

そんなの知らないよ……
そう思いつつ、少し目を開けると、私に暴力を振るってくる男の後ろで母親が作ったような泣き顔をしていた。

「お前が、なつみのアクセサリー盗んだから、なつみはショックで泣いてるし俺も怒ってるんだろうが!!あ!?泣いてないでとっとと返せや!!!!」

アクセサリー……?
そんなの、知らないって。
どうせ、どこかで無くした八つ当たりをするために、私のせいにしたんだろ……

「……ぬ、すんで…………ない……」

カスカスの声で伝えるも、火に油を注いだようで、さらに男の怒りはヒートアップしていく。

「お前が盗んでなかったら、じゃあ他に誰がやったって言うんだよ!?俺らのことおちょくってんのか!?あーーー、腹立つ。なんで、そう自分がやったことも認められないのかなあ。教育がなってねえや。」

…………嫌な予感がする。

男は、そう言い放つやいなや、私の髪の毛を乱暴につかみ、そのままどこかへ引きずっていく。

「…ぃ、いやっ!!やめてっっっ!!!!」

精一杯、体を動かして抵抗するが、全然力の入らないからだでは到底かなうはずもなく、呆気なく引きずられていく。

そして、そのまま私はお風呂場の湯船の中に放り込まれた。

「ちょっとでも反省した素振り見せてみたら??それが出来るまで、そこで頭冷やしとけ。」

そう言って、男はどこからか持ってきた紐で私の手足を縛り、蛇口を捻った。

手足を縛られたせいで身動きが取れない……

蛇口からは冷たい水が勢いよく流れてくる。

………………これは、とうとう私、死ぬかも…

真冬の寒いお風呂場で、さらに冷水をかけられ、あっという間に私の体温は奪われていく。

そして、だんだんと顔の辺りまで水が近付いてきて、ついに顔の下の方が水に浸かった。




短い人生だったなあ……

最後はこんなに呆気なく終わるのか…

怖がってる暇もない……

でも、これで辛いのから解放されるのなら…………

それはそれで、いいか。



私の意識はそこでプツンと途絶えた。
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