私が恋を知る頃に
「ねえ、、、」

そう言って、先に口を開いたのは穂海ちゃんの方だった。

「ん?なに?」

「……なんで、先生たちは私に構うの?」

「えっ…………」

唐突に来た予想の斜め上からの質問に驚く。

なんでって言われても…、そりゃあ

「そりゃあ、みんな穂海ちゃんを助けたいからだよ。」

「つい最近会ったばっかりなのに?ついこの間まで他人だったのに、なんで?」

「…なんでって言われても、辛そうにしてる人が居たら俺たちはその人を助けてあげたいんだ。辛そうにしてるのに、放っておけるわけないでしょ?」

そう言うと、穂海ちゃんは難しい顔をして、少し考えてからまた口を開いた。

「……だって、今までは私がどん目に会っていようと、誰も何もしてくれなかったよ?それが……普通、じゃないの?」

あぁ、そっか。

穂海ちゃんの育ってきた環境を考えれば、穂海ちゃんがなんでそんな質問をしたのかすぐわかった。

「…少なくとも、ここにいる人たちは違うよ。この病院にいる人たちは、みんな、誰かを助けたくてここにいるからさ。だから……俺たちだから、特別穂海ちゃんに構ってるんじゃないよ。俺ら以外の先生も看護師さんも、みんな穂海ちゃんが言えばいつでも助けてくれるし、来てくれる。大丈夫、誰も穂海ちゃんを無視する人はいないから。……今は不思議かもしれないけど、きっと、いつかそれが普通になるから。」

そう言うと、穂海ちゃんはまだ少し不思議そうな顔だったが、頷いてくれた。

「じゃあ、今度は俺から。…穂海ちゃんの好きなもの、教えて?趣味とかでもいいよ。」

「…好きなもの?…んー………………お布団…かな。」

これまた、予想外の答えが返ってきた。

「……なんで?」

「…お布団は、安心する。暖かくて、暗くて、私を守ってくれるから。」

それを聞いて、俺は自分の学習能力の無さに心底がっかりした。

言われてみれば、それもそうだ。

今までの行動を見てたら理由なんて一目瞭然だったのに。

……俺、まだまだ穂海ちゃんのことわかっていない…

「…趣味は?」

……ない とか?

そう言われたら、どう返せばいいだろう…

そう考えているうちに、これまた意外な答えが返ってきた。

「お絵描き…」

「えっ……穂海ちゃん、絵描けるの?」

「…うん。……全然、へたっぴだけど、絵描くのは昔から好きで、ずっと隠れて描いてた。」

「そっか。じゃあさ、今度描いてみせてよ。俺、穂海ちゃんの描く絵、見てみたい。」

そう言うと、少しだけ穂海ちゃんの顔が明るくなった。

「…うんっ……描く」

よっぽど好きみたい。

初めて、穂海ちゃんのこんなに嬉しそうな顔を見た。

よし、この調子。
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