私が恋を知る頃に
そんなことを考えていたら、ふと、足音が聞こえてきた。

足音はどんどん、私の部屋へ近付いてくる。

経験上、足音が近付いてくるのは苦手で、どうしても、少し身構えてしまう。

…………大丈夫、ここは病院だから。

そう思っても、内心緊張は高まるばかりで、目を瞑ると今にもあの時の光景が思い浮かびそうだ。

『とっとと死ねばいいのに』

聞こえてくるはずのない声が聞こえる気がして、思わず布団に潜り込む。

その時、カラカラっと静かに部屋の扉が開かれる音がした。

…いや、来ないで…………

頭の中は半分パニックで、呼吸が乱れ始める。

その様子を見てか、足音の主が、駆け足で近付いてきたのがわかった。

布団越しに、肩をポンポンと叩かれる。

「…ほのみちゃん、ほのみちゃん。……息、大丈夫?」

聞きなれた声に少し安心し、布団から顔を出す。

「息、苦しくなっちゃった?…落ち着いて、深呼吸しようか。」

そう言って声の主…碧琉先生は、私の体を起こして、背中をさすってくれる。

「よしよし、大丈夫だよ。大丈夫。」

大きな手で背中を撫でられると、さっきの怖さが嘘のように、暖かくてふわふわとした気持ちになってくる。

あぁ、ずっとこのままでいたいな…

改めて、そう思わされた。
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