私が恋を知る頃に
「あのね、少し昔の話になるんだけど、俺の同級生で前苑ってやつがいたんだ。前苑は、小さい頃に親を亡くしていて、里親に引き取られた。…けど、前苑はその親に暴力とか暴言とか酷いことをし続けられていたんだ。
それで、必死に逃げ出してきたんだけど、外で倒れたらしいんだ。それで、病院に運ばれたんだけど、その先で病気が見つかった。白血病っていう、血液のガンだったんだ。白血病の治療はすごい辛くて、高い熱が出て、フラフラの中で吐き続ける毎日だった。…でも、そんな辛い毎日でも、前苑は頑張り続けた。……なんでだと思う?」

「…………わかんない…」

「うん。そりゃ、わかんないよね」

先生はそう言って少し笑うと、また話を始めた。

「前苑にはね、心強いパートナーがいたんだ。……それは、その時前苑の担当医だった清水先生。前苑は、今の穂海ちゃんみたいに、大人に対して恐怖心を持っていたんだけどね、清水先生には、心を開いていて、完全に信頼していて辛いときも清水先生が前苑を支えていたんだ。治療が辛くて、前苑は泣いていたんだけど、清水先生が来たら安心したような顔するの。……だから、って訳じゃないんだけどね」

そこまで話すと、先生は私の目を見て手をそっと握った

「俺は、穂海ちゃんの支えになりたいの。おこがましいかもしれないけど、前苑にとっての清水先生だったみたいに、俺も穂海ちゃんに信頼してもらえるような医者になりたい。穂海ちゃんがいいなら…だけど、穂海ちゃんが退院して、18になった時、もし行くところがなかったから…………うちに来ませんか?」
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