私が恋を知る頃に
急に言うもんだから、先生の話が一瞬理解できなくなったけど、すぐに理解して、思わず息を飲む。

「え…………ぁ……」

言葉は理解出来たけど、それがどういう意味か、どういう意図かが分からなくて頭が混乱する。

上手く言葉が出なくて、でも、心ではすごく嬉しくって…

わかんない、わかんないけど、鼻がツンとして、涙が零れそうになる。

先生は、そんな私のことを静かに見守って、返答を待ってくれているようだ。

「あ、あの……」

「うん」

「私…その……え?どういうこと?先生の家?…………私が?」

「うん、そうだよ。もし穂海ちゃんが良いなら、うちで一緒に住まない?」

まだ混乱している私の手をキュッと握り、先生は私の目を見る。

「……でも、なんで?…そんな、私なんか…………」

「"なんか"じゃないよ。穂海ちゃんだから、一緒に住みたいんだ…………つまり、なんというか………………」

そこまで言うと、先生は顔を赤くした。

「穂海ちゃんを守りたい、守ってあげたい。他の患者さんだって助けてあげたいけど……守ってあげたい、一緒に居たいって思ったのは穂海ちゃんが初めてなんだ……」

「でもっ……、私、居たら迷惑だよ?私、鈍臭いし、無能だし…邪魔……だし…」

自分で言っておいて、ちょっと悲しくなるけど、でもこれは事実。

何回も何回も言われ続けてきたこと。

だから……

「そんなことない。」

そう言った先生の目は真剣で、少し怖い顔をしている。

「自分のこと、そんな風に言わないで?穂海ちゃんは、迷惑でもないし、邪魔でもない。誰かが、そう言ってきたのかもしれないけど、そんなこと絶対にないから。穂海ちゃんには、穂海ちゃんだからこその長所とか良さが沢山あるんだよ?だから、自分のこと酷い言葉で貶さないで?辛くなるだけでしょ?」

……ああ、また、涙が出そうだ。

なんで、こんなに先生は優しいの?

今まで経験したことの無い暖かい優しさで私を包み込んでくれる。

私は、それに慣れていないからすぐに泣きそうになるし、戸惑っちゃう。

「……本当にいいの?私?いいの?」

「うん。むしろ、来てくれたら嬉しい。俺、穂海ちゃんと離れたくないもん…」

そう言って、先生は私のことを優しく抱きしめた。

色々な気持ちが混ざった涙を流す私の背中をそっとさすってくれた。
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