私が恋を知る頃に
数時間後…

「おはようございます」

そう言いながら、清水先生が医局に入ってきた。

「おはようございま「おっはよーー!ふーま」

俺が、言い終わる前に佐伯先生が清水先生に突進していく。

「おわっ!!お前、年甲斐もなく…、なんなんだこんな朝から」

清水先生は佐伯先生の突進を難なく受け止めると、まるでいつもの事かのようにサラリと流した。

「チエッ、つまんねーの。」

「つまんなくて結構。それで?何かあったんじゃないの?」

そう言うと、佐伯先生は目を輝かせて俺の方を向く。

「楓摩、俺も穂海ちゃんのオペ混ぜて!」

いつの間にか名前を知ったのか、佐伯先生はさっきのクールな感じとは真逆に、ぶんぶん尻尾を振っているが見えるくらいのテンションで清水先生を見つめている。

「あー、それね。いいよ。どうせ、元から入ってもらおうと思ってたし。」

「よっっしゃ!!」

そう言いながら佐伯先生はガッツポーズを決める。

「てか、いつの間に瀬川くんと仲良くなったの?」

「ん?今朝だよ。ついさっき。」

「へえ、なら都合もいいか。」

清水先生は俺の方を向き直すと

「もう知ってると思うけど、こいつは小児心臓外科の佐伯 陽向。こんなんだけど、子供の心臓に関してはスペシャリストだから、何かあったら相談するといいよ。」

小児心臓外科…………?

「へ?」

思わず、マヌケな声が出る。

「あれ?言ってなかったの?」

なんて、清水先生は軽く言うけど小児心臓外科といえば、心臓外科でさえ難しいのに、それよりも小さい小児の心臓を扱う、外科の中で最も難しい分野のひとつ。

しかも、小児心臓外科は、普通の医者として何年か務めたあと、さらに資格を得ないといけない専門医界のトップ。

絶滅危惧種とも言われるほど少ない専門医が……まさか、こんなに近くにいたとは…

「す、すごい…………」

無意識に言葉が漏れる。

その様子を見てか、清水先生と佐伯先生は目を見合わせてからプッと吹き出した。

「すっげー、マヌケ顔wwwなに?びっくりした?すごいっしょ、これでも俺頑張ったんだよ?」

そうニヤッと笑う佐伯先生は、さっきのおちゃらけてた佐伯先生と同一人物とは思えないほどかっこよく見える。

「まあ、こんなテンションの奴が小児心臓外科医って言われたら誰でも驚くな。」

「ちょっと楓摩それどーゆー意味よ」

「そのまんま。…まあ、そういう事だから。これから、手術前にも何回かミーティングすることになるからさ、よろしくしてやって。」

「あっ、はい!よろしくお願いします!」
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