私が恋を知る頃に
「穂海ちゃんの件、だいぶ難しそうだね。」

「……うん。どうするのが穂海ちゃんにとっての最善なのか…ってずっと思ってるんだけど……中々難しくてさ」

「そうだよね、俺も今日ずっと考えてたんだ。どうしたら、穂海ちゃんに怖い思い、辛い思いをさせずに済むだろうって。……でも、いくらなんでも少し時期が遅すぎた。…今、俺たちにできる最善は、きっと少しでも怖さを取り除いて、取り乱してしまった時に一秒でも早く落ち着かせてあげられることだと思うんだ。」

そう言う兄貴の顔は真剣で、そして少し悔しげでもあった。

「そのために、当日、穂海ちゃんに会わせる前に警察の方と少し打ち合わせをして、実際に事情聴取の時は傍にいさせてもらおう。くれぐれも、大人に対する恐怖心を増加だけはさせないようにして。……穂海ちゃんも、少し話して自分を傷つけない人だとわかったら、そこまで派手に取り乱しはしないと思うから。」

兄貴の言葉に頷きを返す。

穂海ちゃんを見知らぬ大人に会わせることは沢山のリスクが生じることになる。

もしかしたら、怖さを助長させてしまうかもしれない。

もしかしたら、トラウマをフラッシュバックさせてしまうかもしれない。

その様々なリスクをできるだけ避け、穂海ちゃんの心を守ってあげるのが俺たちに与えられた使命というか…

穂海ちゃんを守ってあげたいと公言した自分の使命だ。

時間は少ない…

だからこそ、今、動かなければならない。

「兄貴、ありがとう。俺、穂海ちゃんの所に行ってくるよ。難しいけど、俺が彼女を守るって言ったから。」

「おう、頑張れよ。何かあったら俺もサポートするから。」

そう言ってくれる兄貴はとても逞しくて、かっこよかった。
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