私が恋を知る頃に

穂海side

コンコンッ

「………………はい。」

「失礼します」

カラカラッとドアを開けて瀬川先生が入ってくる。

「急にごめんね、今日はちょっと話したいことがあって。」

また、何かあるの?

この前、取り乱してしまったことを思い出して、少し気分が落ち込む。

嫌だな

もう、思い出したくないのに…

「……なに?」

「今日はね、会わせたい人がいるんだ。」

そう言って瀬川先生が連れてきたのは、知らない女の人だった。

誰?

なに?

私を捕まえに来た?

そう思った途端、頭が真っ白になる。

いや



やめて

帰りたくない

戻りたくない

また、あそこに連れ戻されるの??

また、毎日痛いことされるの???

嫌だ

やめて

帰りたくない

焦る心に伴って、呼吸が上手く出来なくなる。

嫌だ

やめて

「穂海ちゃん」

なに?

やっぱりここにいちゃダメなの?

やっぱり私のこと捨てるの??

私が悪い子だから??

私が悪い子だから、みんな私を嫌うの??

捨てるの?

嫌だ

捨てないで

帰りたくない

無意識に大粒の涙が零れる。

呼吸はどんどん出来なくなり、どんどん苦しくなっていく。

苦しい

苦しい

心も体も苦しいよ…

助けて

誰か、助けて

「_____みちゃん、穂海ちゃん、落ち着いて。過呼吸、苦しいでしょ?一緒にゆっくり深呼吸してみよう。」

なんで優しくするの?

どうせ捨てるのに

捨てるなら最初から優しくしないでよ

もう、やめてよ

ちょっとでも、浮かれた私がバカだった

やっぱり誰も私なんか要らないんだ

みんな私を嫌ってる

だから、みんな私を捨てる

なんで

なんで捨てられないといけないの

いやだ

1人は嫌だ

ごめんなさい

ごめんなさい

不出来な人間でごめんなさい

何を思ったのか、体はこの病室から出ようと勝手に動き出す。

でも、力の入らない体じゃフラフラで、立ち上がった瞬間、体が前へと傾いた。

床が迫ってくる。






ゴツンという鈍い音と共に痛みが走り、私はそこで意識を失った。
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