私が恋を知る頃に
コンコンッ

「失礼します」

昨日約束した通り、今日は清水先生の奥さんと会う日

私は、先生に手を握ってもらって、ベッドで待った。

ドアが開き、女の人が入ってくる。

怖くない…大丈夫。怖くない……怖くない

自分に言い聞かせるものの、緊張のせいか、心臓はバクバク音を立てる。

「こんにちは穂海ちゃん。清水 朱鳥です。今日はよろしくね。」

「……よ、よろしく…お願いします」

まだ、少し怖くて先生の手をキュッと握る。

すると、先生は気付いてくれたようで、優しく背中を撫でてくれた。

「大丈夫、少しずつ慣れていこう。」

……コクン

「ごめんね、やっぱり初めて会う人だと最初は怖いよね。私も昔そうだったからわかるよ。怖くないって言われても、理解してても緊張しちゃうんだよね。」

そう、その通り。

あぁ、この人はわかってくれる人だ…そう感じ、そっと顔を上げた。

目が合うと、朱鳥さんは優しく微笑んでくれる。

「少し、緊張溶けたかな?でも、無理しなくていいからね。きっと、どうしても心の中では緊張しちゃうし、そしたら疲れちゃうと思うから、休憩を挟みつつ、ゆっくり話そう?今日は時間もたっぷりあるから、焦らないで大丈夫だよ。」

……コクン

「…じゃあ、まず自己紹介しようかな。改めまして、清水 朱鳥です。昔、いじめと虐待、あとは闘病を乗り越えた経験があって、今は、いじめや虐待で辛い思いをしている子、トラウマに悩まされている子のサポートをしています。今は、こうして普通に話せているけど、数年前までは私も他の人が怖くて、外に出るだけで過呼吸を起こすくらいだったの。」

「えっ」

思わず、驚きの声が漏れる。

だって、そんな活動をしてるっていうから、人を怖いと思ったことがないんだと思っていた。

きっと私よりも何十倍も強い人なんだな…って

「驚いた?でも、 ほんとだよ。瀬川くんなら知ってるでしょ?」

「うん。前苑…いや、清水か……は、闘病してた時はすごく弱々しかったし、ただ寝ているだけの時も何度も酷い暴力を振るわれる夢を見て、いつも泣いてた。清水、喘息持ちだから泣いたら喘息発作が出たり、すぐ過呼吸になったりして大変だったよな。」

全然、そんな風には見えなかった。

朱鳥さんも、そんなに辛い思いしてたんだ。

「確かに大変だった。今も、たまに昔の夢見るよ。もう、解決はしたんだけどね。疲れた日とか、体調悪い時は魘されることが多いかな。でもね、こうやって今、何気ない時間を楽に過ごせているのは、私が入院してた時サポートしてくれたみんなのおかげなんだ。だからね、私も穂海ちゃんが普通で幸せな毎日を送れるようにサポートしてあげたいの。だから、穂海ちゃんの話も聞かせてもらってもいい?」

コクン

この人は、きっと私を助けてくれる。

信頼出来る。

直感的にそう感じた。

その瞬間から、話すのが少し楽になった気がした。
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