私が恋を知る頃に
「…あのね」

「うん」

「……グスッ…私、要らない子なの。……ヒック…お前なんか産まなきゃよかった……って…お前なんか居なければいいのにって…………ヒック……それを、毎日のように言われててね…さっきも夢に出てきて……グスッ…………これ言われると、苦しくって…ヒック……心が辛くって…………グスッ」

この言葉を思い出す度に、首を絞められるみたいに苦しくなる。

悪い言葉がどんどん溢れてきて、言葉の海に溺れそうになる。

目をつぶっても、耳を塞いでも、嫌な言葉は耳から離れない。

「わ、私っ……どうすればいいのっ?…ヒック……誰にも必要とされてなくて、どこにも居場所がなくて、みんなに嫌われてっ…………でも、死ぬのは怖いよ……死にたくないよ…でもっ、でもっ……………生きてるのも苦しいの……」

ダムが決壊したかのように心の声がどんどん漏れてくる。

今まで溜めてた気持ちが溢れて止まらない。

「なんでっ、なんで私は生まれたの???"産まなきゃよかった"なんて…じゃあ、産まないでよおっ!!こんな、苦しい思いしてまで生きてるなら、…いっそ殺してよっっ!!!!なんで殺してくれないの???なんでよっ!!なんでよお!!!!!!」

"死ね"

"消えろ"

"ゴミ"

「あぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!!!やめてよっ!!もうやめてっ!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

またこれだ

耳を塞いでも塞いでも、嫌な声がずっと聞こえて

頭がおかしくなりそう

やめてよ

ごめんなさい

苦しいよ

辛いよ

助けて

助けて

「____のみちゃんっ!!穂海ちゃん落ち着いて、俺の声に集中して。大丈夫、誰も穂海ちゃんを傷つけることは言ってないから。」

嫌だ

嫌だ

怒らないで

怖い

もう悪いことしませんから

ちゃんといい子にするから

ごめんなさい

ごめんなさい

「穂海ちゃんっ、穂海ちゃん。目開けて、ここどこ?俺が意外に誰かいる?」

誰、誰の声

落ち着く声

そうだ先生の声

先生?

ハッとして目を開ける

そこには、心配そうな先生の顔。

「大丈夫?ここどこだかわかる?」

「ここ…………びょ、いん?」

「そうだよ。病院。俺以外にここに誰かいる?」

「…………い、ない…先生しか……いない。」

「そうだね。1回落ち着いて深呼吸してみよう。きっと、悪い幻聴が聞こえてたんだね。大丈夫だから、涙拭いて」

そう言われて、初めて自分が取り乱してたことに気がついた。

先生から受け取ったハンカチで涙を拭いて、大きく深呼吸をした。

「落ち着いたみたいだね。水飲む?」

……コクン

ペットボトルを受け取り、ストローから少しだけ水を飲んだ。

全部を一気に吐き出したせいで取り乱しちゃったけど、心は反対にかなり穏やかになっていた。

「穂海ちゃん」

先生に呼ばれて、先生の方を見る。

先生は悲しいような怒ったような、複雑な表情をしていた。

「穂海ちゃんは"要らない子"なんかじゃない。穂海ちゃんが今生きていること、生まれてきてくれたことにも、ちゃんと意味がある。だからさ、"殺して"なんて言わないで…」

優しく包まれた手から熱が伝わってくる。

「俺はね、穂海ちゃんと出会えて嬉しいんだ。…本当なら、病院なんて来ない方がいいのかもしれない……けど、俺は穂海ちゃんと出会えたから…変な言い方だけど、穂海ちゃんがここに来てくれたこと嬉しく思うよ。それも、穂海ちゃんが今まで頑張って生きてきてくれたから、今がある。少なくとも、俺は穂海ちゃんを必要としている。そして、穂海ちゃんの居場所もここにある。もし、退院して行く宛てがないなら家においで。穂海ちゃんの居場所は俺が作るから。」
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