私が恋を知る頃に
駐車場に車を停め、小走りで自宅へ向かう。

エレベーターが来るまでの数秒すら、待ち遠しい。

最近朱鳥は、ずっと元気そうだったから、余計に不安になるのかもしれない。

熱あったら本人も辛いだろうし、こっちも朱鳥の苦しそうな顔を見るのはつらい。

自宅がある階にエレベーターが着き、俺は急いで部屋へ走る。

「朱鳥っ」

返事はない。

寝室へ入ると、汗をびっしょりかいて、顔を真っ赤にした朱鳥が寝ていた。

やっぱり……

これ、絶対熱あるな…

いつも、ベッドサイドの棚に置いてある体温計を取り出して朱鳥の脇に挟む。

「朱鳥、朱鳥」

体温を計っている間に朱鳥を起こす。

朱鳥は、ゆっくり目を開けると、不思議そうな顔で俺を見る。

「朱鳥、朝からずっと寝てたの?」

コクン

「相当具合悪いでしょ…連絡くれればよかったのに……」

「…………ごめん、……寝てて…」

声からもわかる、朱鳥のつらそうな様子に胸が痛くなる。

そっと頭を撫でてから、朱鳥の額の汗を拭う。

「久しぶりの熱だから、かなりダルいでしょ…、吐いたりはした?」

ウウン

朱鳥は小さく首を振る。

「熱、だるさだけ?頭痛は?」

「…………ちょっと…」

「ちょっとだけあるの?」

コクン

「…そっか……ごめんね、辛いしょ。もっと早く来てあげればよかった…」

そう言ったタイミングで体温計がなる。

「……38.7 やっぱり高熱だね…このままだと辛いだけだし、病院行こっか。」

…………コクン

「うん。じゃあ、早く病院行って薬入れて楽にしようね。抱っこしてもいい?」

コクン

「ありがとう。」

俺は、熱い体の朱鳥をいつものように抱き上げる。

荒い息が、朱鳥の苦しさを語っていた。
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