私が恋を知る頃に
「瀬川くんー、いる?」

「はい、います!」

医局に戻って声をかけると、パーテーションで区切られた休憩室の所から、瀬川くんが顔をのぞかせた。

「あ、ちょうど良かった。休憩中?」

「はい、仕事とりあえず一段落したのでコーヒーでも飲もうかと…」

「いいね、俺にもちょうだい」

「わかりました!清水先生はブラックでしたよね?」

「うん、適当に入れてくれたら、ちょっと話したいことあるから。」

今年の4月から後期研修でうちの病院に来た碧琉くん。

一応、病院では立場上瀬川くんって呼んでるけど朱鳥の同級生でもあるし、そこまで硬くならなくてもいい ってのが本音。

それで話したいことって言うのは___

「コーヒーおまたせしました」

「お、ありがと。」

温かい入れたてのコーヒーを少し飲んでから、口を開く。

「そうそう、話なんだけどさ、今瀬川くんって担当患者さんいたっけ?」

「今ですか?今はいません。」

「そっか、じゃあちょうどいいね。……あのさ、ついさっき急患で来た患者さんがいるんだけど、その子の担当に着いてもらえる?」

「わかりました!じゃあ…」

「あ、ちょっとまった。様子見に行くなら、ちょっと待ってもらってもいい?」

「えっ?」

案の定、驚いた顔だ。

「……んーと、少しその子訳ありっぽいんだよね。」

「訳あり?」

「なんというか、これはまだ俺の予測の範疇を過ぎないんだけど、たぶんその子親からネグレクトと虐待を受けてるんじゃないかなって思うんだ。…朱鳥のことを思い出してみてもらったらわかると思うんだけど、たぶんPTSDになってると思う。……だから、様子見に行く時は慎重にお願いしたいな。」

「…なるほど。了解です。…………症状はどんな感じなんですか?」

「運ばれてきた時は、低体温症を起こしてて、今はだいぶ落ち着いたけどまだ油断はできない。あと、重度の栄養失調と貧血もある。今は、体温めて点滴して様子見てる感じかな。」

「低体温症…外に長時間出されていたとか?」

「……いや、違う気がする。運ばれてきた時、体中びしょ濡れだったから…」

俺はそう言いながら、その子のカルテを渡す。

「一応主治医は俺で、担当医が瀬川くんってことにしておくけど、今回はほぼ瀬川くんに任せてみてもいいかな?まあ、最終判断とかは俺がするし、回診も一緒に行くから。」

「わかりました。じゃあ、今から少しだけ様子を見に行ってもいいですか?」

「うん。了解。じゃあ、一緒に行こうか。」
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