私が恋を知る頃に
小走りで、穂海ちゃんの病室へ向かうと、廊下まで声が聞こえてくる。

「穂海ちゃん、入るよー」

病室に入ると、ぐちゃぐちゃになった室内に取り乱した穂海ちゃんと、焦りきった看護師が2人。

穂海ちゃんは過呼吸気味で、いつ発作を起こすかもわからない状態だ。

「穂海ちゃん、遅くなってごめんね、息苦しいしょ、ゆっくり呼吸しようね~」

そう声をかけるものの、穂海ちゃんの耳には届かず、穂海ちゃんは取り乱したまま。

「穂海ちゃん、怖い夢見ちゃったかな?嫌なこと思い出しちゃった?もう、大丈夫だよ、落ち着こうね」

そう声をかけながら、看護師から鎮静剤を受け取る。

「ごめんね、少しチクッとするよ~」

穂海ちゃんを押さえて、鎮静剤の注射を打ち込む。

「いやあっ!!やめて!!!!!もうやめてよ!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

「大丈夫だよ~大丈夫。」

少し強引に、抱きしめて、頭を撫でながら、穂海ちゃんを落ち着かせる。

その時、勢いよくドアが開いた。

「清水先生っ!!すいません!!遅くなりました!!」

瀬川くんだ。

瀬川くんは、走ってきたのか息を切らしながら、穂海ちゃんの手をとる。

「ごめんね、遅くなった。怖くなったらすぐ呼んでって言ったのに遅くなっちゃって本当にごめん。もう大丈夫だよ。ちゃんと、来たからね。」

瀬川くんがそう声をかけると、鎮静剤を打たれ少し朦朧とした様子の穂海ちゃんは、ぼーっと瀬川くんを見つめ、涙を流す。

「せんせ…、こわ……かった…怖かった……」

「うん。怖かったね。遅くなってごめんね。もう、大丈夫だよ。」

そう言って、瀬川くんは穂海ちゃんをそっと抱きしめる。

もう俺は用済みかな…

そう思い、そっと病室を出た。
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