私が恋を知る頃に
柚月のいる隔離室へ急いで戻ると、中から泣き声が聞こえてきた。

焦って、中へ入ると、柚月が目覚めていて、さらに吐いてしまったようで、吐瀉物が広がっていた。

「ぱぱぁ…ぱぱぁ……」

「遅くなっちゃってごめんね、吐いちゃったか…まだ吐きそう?」

「わ、かんな…ぃ……ぱぱ、ぱぱ…抱っこ……」

吐いたことで、少しパニックになってるかな…

とりあえず、柚月の服についた汚れをティッシュで拭ってから、柚月を抱き上げる。

「よしよし、ごめんね、苦しかったね。」

余程気分が悪いのか、柚月はずっとグズグズしていて泣き止まない。

ベッドに広がった吐瀉物も片付けたいし、点滴も外してあげたい…けど、柚月を抱っこしながらでは、それもままならない。

仕方なく、片手でどうにかしてPHSで陽向に電話をかける。

『はい、小児科佐伯です。』

「陽向、今 手空いてるか?」

『楓摩?うん、空いてるけど、どうした?』

「今さ、柚月が吐いちゃって……、それに今すごいぐずっちゃって手が離せないから、点滴交換してもらってもいい?また吐いて、多分この様子だとまだ吐きそうだから……」

『了解。すぐ行くわ。ちょっと待ってて。』

「うん、ありがとう。」

通話を切り、PHSを机に置く。

柚月は、さっきよりもさらにグズグズで、いつもとは打って変わって、わんわん泣いてしまっている。

「よしよし、辛いよね、ごめんね。」

背中をとんとんしたり、さすったりしながらあやしていくと、ゆっくりではあったが、だんだんと柚月は落ち着きを取り戻していった。
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