私が恋を知る頃に
金曜日、朝

警察が来るのは昼前、朝の回診をしてからも少し時間がある。

俺は、昨日のうちに前苑に頼んで今朝穂海ちゃんに会ってもらえるよう、頼んでみた。

一方、穂海ちゃんは、昨日のことをまだ少し引きずっているようで浮かない様子。

警察が来ることもあってか、不安そうな顔で布団にくるまっていた。

コンコンッ

病室のドアがノックされる。

「はい」

「清水です。朱鳥連れてきたから入ってもいいかな?」

穂海ちゃんに視線を送ると、不安そうな顔のまま小さく頷きが返ってくる。

「大丈夫です。」

そう言うと、ドアが開いて2人が入ってきた。

「おはよう、穂海ちゃん。」

……コクン

「体調はどうかな?具合悪いとかない?」

清水先生が聞くと、穂海ちゃんは少し考えてから小さい声で

「…大丈夫」

と答えた。

「そっか。じゃあ、来てすぐだけど、話の邪魔になりそうだから俺は退出させてもらうね。あとでまた、顔見せるから。」

そう言って、清水先生は前苑の肩をポンと叩いてから病室を出ていった。

「よし。じゃあ、今日の作戦会議(?)しようか。今日怖くなっちゃったらどうするか、とか話し合おう。」

立ちっぱなしだった、前苑に椅子を進めて3人で机を囲むように座る。

穂海ちゃんは前回のでかなり前苑には慣れたようで、あまり緊張はしていない様子だ。

俺は持参してきた紙とペンを机に置き話を始める。

「じゃあまず、今日の流れを説明するね。」

「…うん」

穂海ちゃんの様子を見つつ、話を進める。

「最初に、11:00頃に清水先生と警察の方が1人来る。ここの時点では俺はそばにいてあげられるよ。ここで、警察の方から軽い説明と書類の記入がある。ここまではいい?」

コクン

「それが終わったら、俺ら病院関係者は部屋を出ないといけない。逆に、警察の方がもう1人来て事情聴取が始まる。1人は穂海ちゃんから話を聞く人、もう1人はそれの記録を取る人だよ。」

紙に流れを書いてから、穂海ちゃんの表情をみる。

穂海ちゃんの目にはさっきよりも強い不安が浮かんで見える。

「説明はこれでおわり。ここからは、本格的に作戦会議ね。」

……コクン

コンコンッ

穂海ちゃんが頷いたところで、ドアがノックされた。

驚いたのか、穂海ちゃんはビクッと体を震わせる。

「精神科の瀬川です。入ってもいいかな?」

名前を聞いてほっとしたのか、穂海ちゃんはコクンと頷く。

「どうぞ」

俺がそう言うと、カラカラッとドアが開いて兄貴が入ってくる。

兄貴には、前苑が来てることを知らせていなかったので驚いた様子だ。

「久しぶり、朱鳥ちゃん」

「こちらこそ、久しぶりです。」

俺はもう1個椅子を出して、兄貴に勧める。

「よし、じゃあ話を戻そうか。今日の作戦会議だったね。」
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