私が恋を知る頃に
コンコンッ

「失礼します」

知らない声に体がビクッと震える。

怖さに耐えるようにシーツをギュッと握りしめる。

ドアが開く音がして、人が入ってくる。

怖い…怖い……

大丈夫だとわかっていても、本能で男の人を拒否してしまう。

怖くて顔も上げられないし、体はまた小刻みに震え始める。

「本日はご協力ありがとうございます。堂坂つぐむ、悠木なつみについてお話を伺いに来ました。」

堂坂つぐむは、この前まで家によく来てた男の名前…、悠木なつみはお母さんだ。

「11月19日の事をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

そう言われて、初めてあの日が11月19日だった事を知る。

ずっと家にいたから日付感覚なんてとっくに無かった。

「…すみません、お話伺ってもよろしいですか?」

「あ……ご、ごめんなさい…」

私がちゃんと話さないから、警察の人もきっとイライラしてる

また、私は人を怒らせる…

"どうしてお前はそう人を怒らせるんだ"

"なんで私がアンタのせいで怒られないといけないの"

お母さんと男の人の怒った顔や声を思い出して、「ヒッ」と息を飲む。

ダメ…思い出しちゃダメ……

「あ、あの……」

「やっ、いやあっ…」

ごめんなさい、怒らないで

悪い子でごめんなさい

いい子になれなくてごめんなさい

やめて、殴らないで、蹴らないで

痛い痛い痛い痛い

頭が嫌なことで埋め尽くされて、息が苦しくなる。

聞こえないはずの声が聞こえてきて、思わず耳を塞ぐ。

ダメ、大丈夫だから、落ち着かなくちゃ、怖い、苦しい、痛い、怖い、先生呼ばなきゃ、ナースコール

涙が溢れて止まらない

ろくに見えない視界で必死にナースコールを探す。

見つからない、見つからない

どうしよう、苦しい、怖い

心はどんどん焦っていくばかりで、息ができない

どうしよう、どうしよう、どうしよう

パニックになった頭は上手く動かなくて、同じことを何度も考えてしまう。

苦しい、怖い、どうしよう

それらだけがぐるぐる回って気持ち悪い

助けて、助けて
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