私が恋を知る頃に
「穂海ちゃん、少し診察してもいい?体温とか聴診だけ。」

ご飯が下げられ、気持も落ち着いた頃にそう言われる。

正直、聴診は苦手…

体に触られると、嫌でも昔のことを思い出しそうになってしまう。

「…聴診怖い?」

……コクン

そう頷くと、先生はポケットに入れてた聴診器を取り出して布団の上に置く。

「じゃあさ、俺は音聞くだけにするから、穂海ちゃんがここ動かして当ててみてくれる?…それなら怖くない?」

「……わかった」

先生に手渡された聴診器の丸い方を手に持って、指示された場所に当てる。

他の人にやられると怖いけど、自分でだとだいぶ怖さが減った。

「うん、いいね。ありがとう、よく頑張ったね。」

先生は聴診器を外すと、そう言って頭を撫でてくれる。

頭を撫でられるのは少しくすぐったくて、でも褒められたみたいで嬉しい。

気持もぽかぽかしてもっと撫でられたいなんて思っちゃう。

頑張ったらもっと撫でてくれるかな?

それなら、頑張るのも悪くないな、なんて思ったりして。
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