私が恋を知る頃に
その後も、研修の間や休憩時間を使って穂海ちゃんの部屋にちょこちょこ顔を出したが、穂海ちゃんは夜まで眠たそうにしながらもずっと起きていた。

今日も穂海ちゃんについていた方がいいかな…、眠れそうなタイミングを見つけて寝かせてあげたいし、夜中仮に寝れたとして怖い夢を見てしまった時に誰もいなかったら不安だろうから……。

そう思い、エナジードリンクを買いに病院1回のエントランスまで降りる。

自販機に向かうと、先客がいた。

「あれ、瀬川くん。おつかれ、今日はもう上がりじゃないの?」

この人は確か…佐伯先生。

「お疲れ様です。本当は上がりなんですけど、少し気になることがあって残ろうと思って」

「あぁ、穂海ちゃんのこと?楓摩から聞いたよ。穂海ちゃんも悪夢で悩まされてるんだってな…。」

「はい……。昨日見た夢がそうとうショックだったみたいで、昨日から一睡もしてない様子なんです。体力面でも、精神面でも心配で…。」

佐伯先生の気遣いでコーヒーを頂き、自販機前のベンチに並んで座る。

「一睡も、か…。それは心配だね。でも、昨夜からってことは、瀬川くんも昨日から家帰ってないんじゃない?」

「そうですけど…もし、俺が帰ったあとに何かあったら心配で、帰ってもずっと気がかりだろうし……、それなら居た方がいいかな、と。」

「んー、まあそれも一理あるけどさ。…前に楓摩もそうやって無理して体調崩したことあったから……。今日は、俺も楓摩も当直でここに居るから、瀬川くんは帰ってゆっくりしたら?楓摩は、そういう対応慣れてるし、俺も何だかんだここで何年もやってきてるから、安心して任せてくれていいよ。」

正直、まだ穂海ちゃんに対する心配は拭えないが、佐伯先生の言うことはもっともだ。

医者である俺が体調を崩したら本末転倒だし、むしろもっと迷惑をかけてしまう。

今日はお言葉に甘えて、帰ることにしようかな。

「ありがとうございます。先生方がいてくれるなら心強いです。お言葉に甘えて、先にあがらせてもらいます。」

「うん。それがいいよ。というか、そんなに気負わなくていいんだよ。何かあれば、もっと俺たちを頼ってくれていいから。」

そう言って笑ってくれる先生の姿は、本当に頼もしかった。

やっぱり、まだまだだな俺。
< 99 / 282 >

この作品をシェア

pagetop