・MINT

 別にタメ口で話されたことに腹など立てていないし、むしろ先輩後輩の変な距離感みたいなものが無くなったように感じてしまったから。なんだか、ちょっと照れくさくて恥ずかしくなったのだ。

 動揺していることを高木君に悟られたくなくて。ワザと先輩面してしまった私は、自分の気持ちに気付いてしまった。


 高木君のこと、好きになって……た?


 決して、頬に触れられたから恋に落ちたわけではないし。
 気を遣ってくれて、心配してくれるから好きになったのでも、ない。

 そもそも、最初は「仕事もろくに出来ないくせに、生意気な口ばかりきいてムカつく」と思っていたし。できれば教育係なんて、したくなかった相手だし。


 何時から好きになっていたんだろう。正直、分からない。高木君が入社してから、ほぼ毎日一緒に行動していたけれど。
 それは、仕事を教え込むという現状から、高木君が私の傍に居ることが必然みたいな毎日で。
 仕事中に、恋愛感情など持ち込んだ覚えもないはずなのに。


「岩永さん?」


 こうして目の前に居てくれる高木君のことを、手離したくないと思っているなんて。

 ないない、あり得ない。私は高木君の教育係であり、先輩で。年上なのだから、変な気を起こしてはいけない立場なのに。

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