・MINT
空を見上げた高木君は、気持ちを切り替えるように溜め息をひとつつくと。私のバッグを手にして歩き出した。
どんなに「自分で持つから」と手を伸ばしても、高木君はバッグを返してくれなくて。数メートル歩いたのち、先に諦めたのは私の方だった。
予定していた店舗に着くと。高木君は率先して店長に挨拶を済ませ、今後の商品展開などの説明を始めた。
そんな高木君の一歩後ろで控えるように立つ私は、高木君の成長を間近に感じている。
「……じゃあ、陳列棚の確認に行きましょうか」
担当パートさんと共に高木君は店内へ向かった。バックヤードから高木君の背中を見送っていた私は「彼、ここ数年でかなり成長したね。これからも高木君に担当してもらいたいな」と店長さんから、お褒めの言葉をかけられた。
「ありがとうございます。本人が聞いたら、きっと喜びます」
高木君が褒められたのに、自然と心が弾んでしまう。まるで私が褒められたような気分になるし、教育係の冥利に尽きる。
話が終わったのか、店内で担当パートさんに一礼し、バックヤードに戻って来た高木君は「終わりましたよ。社に戻りましょう」と私に笑顔を向けた。