俺様上司が甘すぎるケモノに豹変!?~愛の巣から抜け出せません~
告白にも近い会話と仕事の話を同じ調子で話せるなんて、小宮山さんって繊細そうに見えて意外と肝が据わってるななんて密かに感心しながら、私は話題が変わったことにホッとしていた。
「夏祭りのポスター、今年は小宮山さんが手掛けるんですね! すごーい!」
S区の夏祭りは東京でも五本の指に入るほど大きな規模のお祭りだ。宣伝も全国区で打たれるので、広告費も相当のものになる。
そんな大きな案件の写真を任されるなんて、やっぱり小宮山さんはすごい。
けれど彼は「いやいや、すごいのは僕じゃなくて東條さんだよ」と首を振って謙遜する。
「東條さんは本当にすごいよね。僕は自分のことを感性寄りのアーティストだと思ってるんだけど、東條さんは膨大なロジックからクライアントとターゲットを結ぶ最短のデザインを導き出す天才デザイナーだ。あの人のイメージ通りの画が撮れたとき、確実にいいものになるって手応えを感じられるんだよ」
小宮山さんの話に同調し、私はコクコクと頷く。
東條さんのデザインは本当にすごいし尊敬している。大手広告会社が欲しがるほどの人材だ。彼ほどの才能ある人が上司で誇りにさえ思う。
「私、芸大時代の友達に『しののめ広告』で働いてるって言うと羨ましがられるんですよ。東條さんの下で働けるなんていいな、って。でも東條さんならもっと大手のCDにも余裕でなれそうなのに、なんでうちみたいな中堅に居続けてくれるんでしょうね」
何気なく言った私の話に、小宮山さんが『あれっ』という表情を浮かべた。それに気づいた私が目をしばたたかせると、彼は「梓希さん、まだ知らない?」と声を潜めて言った。
「東條さん、来年にはここ辞めて独立するんじゃないかって。結構あちこちで噂になってるから本当じゃないかな」