俺様上司が甘すぎるケモノに豹変!?~愛の巣から抜け出せません~
人差し指を口もとにあてて話されたその内容に、私はあやうく『えええーっ!?』と出しそうになった大声をごくんと飲み込む。
確かに東條さんほどのデザイナーなら独立しても仕事は引く手あまただろう。急に聞かされたのでビックリしたけれど、とても当然のことのようにも思えた。
「そっかあ……そうですよね、東條さんほどの人なら独立して当然かあ。でも三十代前半で自分の事務所持っちゃうなんて、やっぱりすごいですよね」
独立して個人で事務所を持つなんて、ものすごく憧れる。夢のまた夢だとはわかっているけれど、そんな未来を思い描いてウットリとしていると、小宮山さんのスマートフォンが鳴った。
「あ……っと、僕そろそろ行かなくちゃ。それじゃあ梓希さん、また」
そう言って小宮山さんは手を振ると、電話に出ながら歩いていってしまった。
彼が部屋を出たのを見届けてから、私はストンと椅子に座る。
(なんか……情報量の多い時間だったな)
周防さんと付き合っていることが小宮山さんにバレた。小宮山さんに『気になってた』と言われた。東條さんが会社を辞めて独立するらしいという話を聞いた。
ぼんやりと背もたれに寄りかかりながら、さっきまでの会話を思い出す。
どの話も驚くことばっかりだった。けど――。
『ちょっと残念だな。僕も梓希さんのこと気になってたから』
そう言って悪戯っぽく見つめてきた小宮山さんの瞳を思い出し、私は熱くなった頬を両手で押さえながら、今日はもう作業に集中なんてできないことを悟った。