俺様上司が甘すぎるケモノに豹変!?~愛の巣から抜け出せません~

 「で、電話くらいちょうだいよ。私にだって都合ってものが……」

とにかく部屋の中に周防さんがいることを知られてはならないと思い、私は開いていた玄関のドアを後ろ手でそ~っと閉めようとする。

ところが、今まで黙っていた父がムッとした様子で口を開いた。

「親が会いにきたのにそげな言方(ゆかた)はないやろ。おっかは疲れちょっど、お茶の一杯くらい出しやんせ」

うちの両親は昔ながらの夫唱婦随だ。お父さんが言いだしたことは我が家では絶対に覆らない。

「でも、あの、そ、そうだ! 近くにおいしいカフェがあるから、そこでコーヒーでも……」

絶対にうちにあげてはならないと必死に誤魔化そうとしていると、背後のドアの隙間から近づいてくる足音と共に声が聞こえてきた。

「おーい、梓希。まだいるのか? コンビニ行くならついでにキッチンペーパー買ってきといてくれ。うちの切れてただろ」

そして次の瞬間、背後のドアが大きく開かれその場の空気が凍りつく。

「……えっと」

勘のいい周防さんのことだ、突然訪ねてきた中年夫妻と私が絶妙な空気を醸し出しているのを見て、瞬時に何か悟ったのだろう。

けれどさすがの彼も、とっさには言葉が出てこないと見える。

私は顔面蒼白になりながら、父が「梓希。うちん娘にキッチンペーパーを買(こ)けいかせる、こん偉そな男は誰(だい)かな?」と恐ろしい作り笑顔を浮かべたのを見て、もう駄目だと思った。
 
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