俺様上司が甘すぎるケモノに豹変!?~愛の巣から抜け出せません~
――生きた心地がしない。という状態は今まさにこの瞬間だなと痛感しながら、私は淹れたお茶を手が震えて零さないように気をつけながら、部屋のミニテーブルへと運んだ。
そこにはキョロキョロと部屋を見回している母と、しかめっ面で腕を組んだまま押し黙っている父、そしてテーブルを挟んだ向かい側に周防さんが座っている。
ピアノ線が張り詰めているかの如く緊張感がビシバシ漂っているのは、言うまでもない。
「梓希ってば、なあにこのお部屋。荷物がガラガラじゃないの。前に来たときはこんなんじゃなかったわよねえ」
お茶を並べ私も周防さんの隣に腰を下ろすと、母が不思議そうに尋ねてきた。
無邪気な母の質問に、父の眉がピクリと動く。どうやらうちの両親は父の方が察しが良いようだ。
ああ、もう駄目だ。言い訳の余地もない。娘が親に内緒で彼氏と同棲していただなんて、お父さんの特大級の雷が落ちるに決まっている。きっと有無を言わさず連れ帰られる。さよなら東京、今日が私の東京での最後の日だ。
もはや覚悟を通り越しあきらめの境地で白目になっていると、隣からコホンと小さく咳払いが聞こえた。そして。
「ご挨拶が遅れまして申し訳ございません。私、梓希さんとお付き合いをさせていただいてます、周防遥と申します」
周防さんは座布団から降りると床に正座し、深々と頭を下げた。
「あらあ、やっぱり彼氏さんなんねえ。はじめまして、梓希の母です。いつも娘がお世話になってます」
母はニコニコと笑顔で返すけれど、父は相変わらずしかめっ面で黙ったまんまだ。けれど周防さんは怯まず続ける。