俺様上司が甘すぎるケモノに豹変!?~愛の巣から抜け出せません~
それから父と母は新幹線の時間があるからということで、すぐに帰っていった。周防さんが車で駅まで送ると言ったけれど「お前に借りはまだ作ろごたなか」と父が子供っぽく突っぱね、母は「娘に初めて彼氏ができてショックなんですよ。許してあげてくださいね」と笑っていた。
ふたりをアパートの前まで見送って部屋に戻るなり、「ふぅ~」と大きな息を吐きだして玄関にへたり込んだのは、私も周防さんも同じだった。
「……よかったあ……鹿児島に連れ戻されるかと思った……」
「本当だよ、めちゃくちゃ焦ったっつうの。でかいプレゼンでもこんなに緊張したことないぜ」
気持ちが少し落ち着いてくるとさっきのやりとりが思い出され、別の意味で私の鼓動が早くなってきた。
「あの……さっき言ったことって……」
私との結婚を考えているなんて、本当なのだろうか。なんだかいまだに信じられなくて、夢でも見ていたような気さえする。
すると周防さんはグイっと私の頭を腕に抱きこんで自分の胸に押しつけると、「まあ、そういうことだ」と照れたようにぶっきらぼうに言った。
それを聞いて私の顔がどんどん赤く染まっていく。やっぱり、夢じゃなかったんだ。
「ちゃんとしたプロポーズはそのうち改めてするから、それまでにお前も覚悟決めとけよ」
『こんなのもう実質プロポーズと同じじゃないですか』と笑いたくなるけれど、私は彼の胸にギュッとおでこを押しつけて「……はい」とだけ小さく答えた。
(惚れ薬の効果、早く解かなくちゃ……出来ることなら、プロポーズされる前に)
飛び上がりたくなるほど嬉しいからこそ、苦しくて切なくて後ろめたさが募る。
周防さんへの気持ちが大きくなって、彼との幸せが大きくなればなるほど、取り返しはつかなくなっていく。彼の人生を変えてしまう前に、この間違った恋は終わらせなくちゃならない。
分かっているのにその日が来ることが今はとても怖くて、苦しかった。