俺様上司が甘すぎるケモノに豹変!?~愛の巣から抜け出せません~
(別に急ぎの仕事は抱えてないけど、今夜は会社に泊まり込んで作業でもしようかな)
そんなことを考えながらノロノロと玄関ロビーを歩いていると、ちょうどエレベーターから降りてきた東條さんと鉢合わせた。
「ん? 帰ったんじゃなかったのか、椛田さん」
「えっと、あの……少し作業をしていこうかと」
「今のところ、きみは急ぎの案件は持ってなかったと思ったが?」
さすがきっちりした性格の東條さん。部下のスケジュールも把握しているみたいだ。
「急を要するものでないなら、なるべく残業は避けてほしい。ただでさえこの業界は時間外勤務が多く、働き方が批難されている。業界全体の悪いイメージを払しょくするためにも、何よりきみの健康のためにも、不要な残業は避けるよう努めてくれ」
そんなふうに諭されてしまうと、仕事にプライベートな問題の逃げ場を求めたことがすごく悪いことのように思えてくる。
「すみません……残業はやめます……」
そう返事すると東條さんは「それがいい」と安心したように頷いたけれど、私がだんだん泣き顔になっていくのを見て、ギョッと目を剥いた。
「なぜ泣く? そんなに切羽詰まった作業があったのか?それなら――」
「ち、違うんです。すみません……私、か、帰りたくなくて……うぅぅ~」
まだ気持ちがちっとも落ち着いていない私は、意味なく勝手に涙があふれてくる。
東條さんが驚いてものすごく困惑してオロオロしているけれど、情けないことに私は涙を止めることが出来ない。
「ちょ……、ちょっと待っててくれ」
そう言うと東條さんは少し離れて誰かに電話をし、通話が終わると再び私の前にやって来て言った。
「うちへ来るといい。今夜はゴマ豆乳鍋だそうだ」